【中国語の主語2/2】日本語話者が陥りやすいミスとその理由~大小関係編~

こんにちは!中国語漫画/字幕翻訳者のもりゆりえです。前回の記事では、「数量名詞と非指定名詞」をテーマに、日本語母語話者が間違いやすい主語の扱いとその理由を考察した上で、正しい中国語の語順を一緒に見てきました。
今回は後編として「中国語の主語の大小関係」をテーマに、日本語母語話者が陥りやすいミスとその理由、そして中国語の主語の大小関係を意識した正しい主語の語順を一緒に見てみましょう。
関連記事:【中国語】「主語」は動作主、「述語」は動作とは限らない?SVOの意味関係
【中国語】日本語話者は意識しづらい?主語の大小関係
中国語では主語の大小関係によって、語順が決まります。
「大きい主語=大主語」とは、言い換えれば文章の話題となる主たるテーマ、「小さい主語=小主語」とは、大主語について説明する際に必要となる主語のことです。
基本的には【大主語+小主語+述語(動詞/形容詞など)】の形で用いられ、大主語と小主語の間には多くの場合、所有関係、全体と部分、関連性といったつながりが見られます。このような形の中国語の文は「主述述語文」とも呼ばれています。
例文と共に、具体的に見ていきましょう。(以降、正しい中国語の文章では大主語を赤字、小主語を青字で表現します)
日本語母語話者によく見られる間違い
误:
➀ A:上海去过吗?
B:*我上海去过。
② A:烤鸭吃过吗?
B:*我烤鸭没吃过。
『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P166より
上の➀の文章では、「大主語」(=文章の主題)は場所を示す「上海」、「小主語」は施事(動作主)である「我」となります。一般的に場所は施事の前に置かれます。(詳しくは後述する「大主語/小主語が入れ替えできない場合」⑥を参照)
また②の文章では「大主語」(=文章の主題)は受事(動作主の影響を受ける物や人)である「烤鸭」は、「小主語」は施事(動作主)である「我」となります。一般的に受事も施事の前に置かれます。(詳しくは後述する「大主語/小主語が入れ替えできない場合」④を参照)
上記の主語の大小関係を踏まえて正しい語順に並び替えると、以下のような形となります。
正:
➀ A:上海去过吗?
(訳:上海に行ったことは、ありますか?)
B:上海我去过。
(訳:上海に私は行ったことがあります。)=主たるテーマ(大主語):上海
② A:烤鸭吃过吗?
(訳:アヒルの丸焼きは、食べたことがありますか?)
B:烤鸭我没吃过。
(訳:アヒルの丸焼きは、私は食べたことがありません。)=主たるテーマ(大主語):烤鸭
中国語の文章は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P166、167より
日本語母語話者が間違いやすい理由
中国語の主語の大小関係は、ときとして入れ替え可能な場合もあります。例えば、以下のように時間詞を伴う場合です。
(1)明天我去上海。→我明天去上海。
(訳:明日私は上海に行きます。→私は明日、上海に行きます。)
(2)昨天老师没来上课。→老师昨天没来上课。
(訳:昨日先生は授業に来ませんでした。→先生は昨日、授業に来ませんでした。)
中国語の文章は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P167より
上記の「明天」や「昨天」のような時間詞を、「非描写性連用修飾語」(句や主述文の動詞、形容詞などに何らかの制限を与える働きがあり、語句を描写しないもの)として見た場合、主語の前後どちらに置くことも可能です。(連用修飾語について、詳しくはこちら)
また時間詞は、「大主語」と「小主語」の観点から見ても入れ替えが可能な成分です。強調したいのが「時間詞」なのか「施事(動作主/上記の文では「我」や「老师」)」なのかによって、強調したい要素(=文章の主題)を大主語として扱い、文頭に出すことができます。(参考:作文から学ぶ中国語(上) 内容見本)
翻って日本語母語話者のひとりとして日本語を見てみた場合、主語の大小を意識して使用することはあまりないように感じます。
「烤鸭我没吃过。」という意味の文章を日本語にした場合、「私はアヒルの丸焼きは食べたことはありません。」と言うこともできますし、「アヒルの丸焼きは、私は食べたことがありません。」と言うこともできるからです。
個人的にはこの間違いのパターンに、日本語の「助詞を用いて語順を比較的自由に入れ替えることができる」という特徴も少なからず影響しているのではないかと感じています。
(なお『日本人学汉语常见语法错误释疑』には、これら「大主語と小主語を例外的に入れ替えられるパターンを見て、他の大主語と小主語も同様に入れ替え可能と考えたのでは?」との見解が述べられています。)
大主語/小主語が入れ替えできない場合 7つ
では、大主語と小主語の位置を入れ替えることができないのは、どのような場合なのでしょうか。以下、具体的に見ていきましょう。
➀大主語と小主語の関係が全体—部分の場合
「この料理の味」、「あの本の表紙」、「あの机の脚」など、全体—部分の関係になっている場合を指します。
➀这盘菜味道还可以,你尝尝。
(訳:この料理イケるよ。食べてみて)
②那本书封皮破了,换一本把。
(訳:本の表紙が破れたので、取り換えてください。)
③那张桌子腿坏了,你修一下。
(訳:机の脚が壊れたので、修理してください。)
中国語の文章は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P167より
②大主語が小主語の所有者の場合
「この子の目」、「あなたたちの学校の図書館」、「部長の権力」など大主語が小主語の所有者となる場合を指します。
➀这孩子眼睛真大!
(訳:この子の目のなんと大きいこと!)
②你们学校图书馆太小。
(訳:あなたたちの学校の図書館は、小さすぎる。)
③部长权力比科长大。
(訳:部長の権力は、課長より強い。)
中国語の文章は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P167より
③小主語が大主語の属性を示す場合
「彼の父親の気質」、「弟の性格」、「この服の仕立て」など、小主語が大主語の属性を表す場合を指します。
➀他爸爸脾气不好。
(訳:彼の父親は怒りっぽい。)
②弟弟性格比较内向。
(訳:弟の性格は、比較的おとなしい。)
③这件衣服做工不错。
(訳:この服の仕立ては素晴らしい。)
中国語の文章は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P168より
④大主語が受事、小主語が施事の場合
「リンゴは弟が(食べた)」、「服は僕が(洗濯した)」、「花の水やりは弟が(済ませた)」などの形で表される場合を指します。
➀苹果弟弟吃了,别找了。
(訳:リンゴは弟が食べたから、それ以上さがすな。)
②衣服我给洗了,在外边晾着呢。
(訳:服は僕が洗濯しちゃったよ。今外に干してる。)
③花弟弟浇过了,不用浇了。
(訳:花の水やりは弟が済ませたよ。それ以上やらないで。)
中国語の文章は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P168より
ただしこのパターンの文章を比較文にする場合は、大主語(ここでは受事)と小主語(ここでは施事)の位置を以下のように変えることができます。
➀弟弟苹果吃了,橘子没吃。
(訳:弟はリンゴは食べたが、ミカンはまだ食べていない。)
②我衣服洗了,床单没洗。
(訳:私は服は洗濯したが、シーツはまだ洗っていない。)
③他花浇过了,菜没浇。
(訳:彼は花の水やりはしたが、野菜の水やりはしていない。)
中国語の文章は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P168より
⑤大主語が道具、小主語が施事の場合
「この刀を私は(使ったことがある)」、「大きいお椀の方は兄が(食べた)」などの形で表される場合を指します。
➀这种刀我用过,很好用。
(訳:この刀を使ったことがあるけど、とても使いやすいよ。)
②大碗哥哥吃,小碗弟弟吃。
(訳:大きいお椀の料理は兄が、小さいお椀の料理は弟が食べました。)
中国語の文章は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P168より
⑥大主語が場所、小主語が施事の場合
「広い部屋は両親が(使う)」、「そのホテルは私は(行ったことがない)」、「そこで私たちは(授業をしたことがある)」などの形で表される場合を指します。
➀大房间爸爸、妈妈住,小房间我们住。
(訳:広い部屋は父と母が、狭い部屋は私が使います。)
②那家饭馆我没去过,不知道怎么样。
(訳:そのホテルには行ったことがないので、よく分かりません。)
③那儿我们上过课,我带你去。
(訳:そこで私たちは授業をしたことがあるから、連れて行ってあげるよ。)
中国語の文章は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P168より
⑦大主語が小主語(施事)に関する事柄を示す場合
「彼女は今回のテストが(不安だ)」、「私はパソコンに関しては(素人だ)」などの形で表される場合を指します。
➀这次考试她心里没底,所以很着急。
(訳:彼女は今回のテストが不安で、焦っている。)
②电脑我一窍不通,别问我。
(訳:私はパソコンに関してはズブの素人なの。聞かないで。)
中国語の文章は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P168より
★★★
いかがでしたか?
今回は「中国語の大主語/小主語」について、日本語母語話者が陥りやすいミスとその理由を『日本人学汉语常见语法错误释疑』を参考にしつつ、日本語母語話者としての自身の感じ方もまじえて考察してきました。皆さんはどのように感じられたでしょうか?
中国語のつまずきポイントを学習することで、自分が今まで無意識に使っていた日本語の特徴が改めて浮き彫りになり、個人的には非常に興味深く感じます。
今回の記事が、皆さんの中国語学習の参考になれば幸いです。
参考:
- 『日本人学汉语常见语法错误释疑』(增订本) 杨德峰 著 商务印书馆出版
- <中国語の大主語/小主語について>
- 参考URL➀:作文から学ぶ中国語(上) 内容見本
- 参考URL②: 第46課:主述述語文 – ミラクル中国語教室
*印の文章は、全て誤用。

もりゆりえ
広島県東広島市出身。尾道市立大学美術学科卒業。高校時代に読んだ漫画「封神演義」をきっかけに中国語学習を開始。大学卒業後中国に渡り、浙江大学に10ヵ月間の語学留学(2005年〜2006年)をする。留学中に、「第二届中国国際動漫画節」に参加。現在はフリーランスの中日漫画翻訳者として活動中。趣味は中国のマンガアプリでマンガを読むこと。
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