【中国語の主語1/2】日本語話者が陥りやすいミスとその理由~数量名詞&非指定名詞編~

語法・表現・フレーズ

 こんにちは!中国語漫画/字幕翻訳者のもりゆりえです。今回は「日本語母語話者が間違いやすい、中国語の主語」について、前編と後編に分けてご紹介していきます。

 前編では、「中国語の数量名詞と非指定名詞」をテーマに、日本語の特徴と中国語の特徴を整理しながら、日本語母語話者が陥りやすい中国語のミスとその理由を一緒に考察してみましょう。

関連記事:【中国語】「主語」は動作主、「述語」は動作とは限らない?SVOの意味関係

【語順】に見る日本語と中国語の特徴

 日本語と中国語の文法が大きく異なることは、中国語を学習中の日本語母語話者の方ならすぐ感じることだと思います。本題の「日本語母語話者が間違いやすい、中国語の主語の位置」に入る前に、両者の大きな違いを「語順」をポイントに簡単に見ていきましょう。

日本語:助詞を用いて語順を変えることができる

 以下の文章をご覧ください。

・私リンゴ食べます。

・リンゴ食べます。

 このように日本語は、語句と他の語句との関係を示したり、文章に一定の意味を加えたりする【助詞】(て/に/を/は/が/の/も など)を用いることで、語順を比較的自由に変えることができます。

 上の文章の主語は「私」ですが、助詞「は」を用いることで語順を変えても「私」が主語であることが分かりますね。

中国語:語順が文の成分を決める

 では、上で紹介した「私は、リンゴを(ひとつ)食べます」を中国語にすると、どのようになるでしょうか。

吃一个苹果

 もしこの語順を入れ替えて“苹果吃我。”とすると、「リンゴが私を食べる。」と全く異なる意味になってしまいます。このように見てみると中国語は、語順が文の成分(主語、述語、修飾語など)を決める言語であることが分かりますね。

 日本語と中国語の「語順」にまつわる特徴の違いを念頭に、本題である「日本語母語話者が間違いやすい、中国語の主語の位置」についてこれから一緒に見ていきましょう。

間違い➀:【数量名詞】を主語にする

日本語母語話者によく見られる間違い

 まずひとつめは、「日本語母語話者が間違えやすい【数量名詞】の取り扱い」です。日本語母語話者は以下の例のように、数量名詞や数量名詞がつく短文を主語にする間違いをしやすいと言われています。

误:

➀*一本书我买了。

②*一个学生走了。

『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P163より

 中国語は一般的に「具体的な物や人」が主語になりやすく、数量名詞(例:一本书(1冊の本)/ 一个学生(ひとりの学生) など具体的でないもの)は主語になりにくい傾向にあります。

 こちらを正しい中国語に直した場合、“一本书”や“一个学生”は述語(买了/走了)の後ろに目的語として置かれます。

正:

③买了一本书

(訳:本を1冊買った。)

④走了一个学生

(訳:ひとりの学生が行った。)

中国語の例文は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P163より

日本語母語話者が間違いやすい理由

 ではなぜ、日本語母語話者は上記のような間違いをしやすいのでしょうか。理由としては以下の2点が考えられます。

➀日本語は、数量名詞を動詞の前に置けるため

 先程ご紹介した、中国語の正しい文章の意味を日本語に訳すと、以下のようになります。

正:

③买了一本书。(訳:1冊買った。)

④走了一个学生。(訳:ひとりの学生行った。)

中国語の例文は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P163より

 日本語の文では、数量名詞がいずれも動詞の前に置かれていますね。このように、学習中の中国語が母語である日本語の特徴の影響を受け、数量名詞を動詞の前=主語の場所に置く間違いが起きやすくなっていると考えられます。

②中国語の比較文では、数量名詞を主語にできるため

 中国語の数量名詞は、一般的に主語にはなりませんが、【比較文】においては主語にすることができます。例えば、以下のような場合です。

(1)一间屋子住人,一间屋子放东西。

 (訳:一部屋は住まいで、一部屋は物置だ。)

(2)一天去长城,一天去天坛。

 (訳:一日は万里の長城に行き、一日は天壇に行く。)

中国語の例文は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P164より

 こちらのように、例外的に数量名詞が主語となるパターンの文を見て、比較文以外でも数量名詞を主語にできると勘違いしてしまっている可能性も考えられます。

数量名詞を主語にできる場合 5つ

 

 中国語では一般的に数量名詞は主語にすることはできませんが、下記の5つの場合では主語として使うことができます。

➀比較文で用いる場合

 先程例に挙げたように、比較文では数量名詞を主語にすることができます。以下のような場合も同様です。

➀这两条裤子,一条裤腿长,一条裤腿短。

 (訳:この2本のズボンは、1本が裾が長く、1本は裾が短い。)

②他们两个人的经济情况差别很大,一个人在天上,一个人在地上。

 (訳:彼らふたりの経済状況は雲泥の差だ。ひとりは雲の上、もうひとりは地の上にいる。)

中国語の例文は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P164より

②物品や仕事を割り振る場合

 例えば、下記のような場合です。

➀你们两个,一个人去打扫,一个人去擦桌子。

 (訳:君たちのうち、ひとりは掃き掃除を、ひとりは机拭きに行ってくれ。)

② A:这些书怎么发?

 (訳:これらの本は、どのように配りますか?)

 B:一个同学一本。

 (訳:生徒ひとりにつき1冊だ。)

中国語の例文は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P164より

③強調する場合

 しばしば「数量(名詞)+都/也+不/没(有)…」「连+数量(名詞)+都/也+不/没(有)…」の形で用いられます。

一个人都不认识。

 (訳:ひとりも知らない。)

一天也没休息。

 (訳:1日も休んでない。)

中国語の例文は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P165より

④質問する場合

 例えば、以下のような場合です。

一个小时够吗?

 (訳:1時間で足りる?)

中国語の例文は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P165より

⑤値段や構造を説明する場合

 しばしば「数量(名詞)+数量(名詞)」の形で用いられます。例えば、以下のような場合です。

一斤苹果两块钱,真便宜。

 (訳:リンゴ1斤で2元は、本当にお買い得だ。)

一小时二十块钱,你干不干?

(訳:1時間で20元だけど、やるかい?)

一天二十四个小时,这谁都知道。

 (訳:1日が24時間なんて、誰でも知ってる。)

中国語の例文は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P165より

間違い②:【非指定名詞】を主語にする

 先程、中国語で数量名詞が主語になりにくい理由として、「中国語は一般的に【具体的な物や人】が主語になりやすいから」とご紹介しました。同様の理由で具体的な事物を指さない【非指定名詞】の場合も、一般的には主語として扱うことはできません。

 以下、日本語母語話者が間違いやすい実例を見ながら、具体的に解説していきます。

日本語母語話者によく見られる間違い

 非指定名詞を主語の場所に置いてしまう間違いは、例えば以下のようなパターンです。

误:

➀老师:你昨天为什么没来上课?

 学生:*朋友来了。

② A:昨天晚上你做什么了?

  B:*作业做了。

『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P165より

 中国語の主語となりえる「具体的な物や人」とは、会話をする人同士が知っている特定の物や人を指します。そのため上記のように「“朋友”が具体的に誰を指すのか」や「“作业”が具体的にどのような内容を指すのか」が明確でない場合は、「具体的な物や人」にあたらない=【非指定名詞】となり、主語としては使用できません。

 上記の間違いの文章を正しく直すと、数量名詞の場合と同様に述語の後ろに目的語として置くことになります。

正:

➀老师:你昨天为什么没来上课?

 (訳:なぜ昨日授業に来なかったんだい?)

 学生:来朋友了。

 (訳:友だちが来たからです。)

② A:昨天晚上你做什么了?

 (訳:昨日の晩は、何をしていたの?)

  B:做作业了。

 (訳:宿題だよ。)

中国語の例文は『日本人学汉语常见语法错误释疑』 P165より

日本語母語話者が間違えやすい理由

 日本語母語話者が【非指定名詞】を主語の場所に置いてしまう理由にも、日本語の特徴が影響していると考えられます。

 日本語で【非指定名詞】を主語として使用する例としては、以下のような文章があります。

(1)雨がふっています。

(2)今日、授業があります。

 (1)は中国語では「下雨了。」、(2)は「今天有课。」となり、「雨」と「授業」のいずれも述語の後ろに置かれていることが分かりますね。

★★★

 いかがでしたか?

 日本語では主語として使える文の成分が、中国語では主語として使えない場合もあることがお分かりいただけたかと思います。中国語の語順でいつも同じようなミスをしてしまう場合は、自分の母語である日本語の影響に引っ張られていないかどうかを、一度確認してみるといいかもしれません。

 次回の後編では、「主語の大小関係」をテーマにして、日本語母語話者が陥りやすいミスとその理由を考えていきたいと思います。

参考:『日本人学汉语常见语法错误释疑』(增订本) 杨德峰 著 商务印书馆出版

*印の文章は、全て誤用。

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もりゆりえ

広島県東広島市出身。尾道市立大学美術学科卒業。高校時代に読んだ漫画「封神演義」をきっかけに中国語学習を開始。大学卒業後中国に渡り、浙江大学に10ヵ月間の語学留学(2005年〜2006年)をする。留学中に、「第二届中国国際動漫画節」に参加。現在はフリーランスの中日漫画翻訳者として活動中。趣味は中国のマンガアプリでマンガを読むこと。

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