【中国語】徐通锵『语言学是什么(第2版)』 の要約:「字本位」とは何か?

語法・表現・フレーズ

『语言学是什么(第2版)』徐通锵 著は、言語学の基本概念・構造・役割・研究対象を中国語母語話者向けに、わかりやすく解説した入門書です。

著者の徐通锵氏は、言語を「現実を記号化した体系」ととらえ、音声・語彙・文法・文字・思考・社会・歴史との関係から多角的に言語学を紹介しています。

徐通锵『语言学是什么』📂章構成と内容要約:

第1章:语言是什么(言語とは何か)

  • 言語とは単なる「話す道具」ではなく、現実を表象する記号体系であり、人間の思考や認知に深く関わっている。
  • 言語には「用いる(交際)」だけでなく、「研究する(認識)」という二つのレベルがある。

第2章:语言的结构(上):语音和语文(音声と文字)

  • 言語の構造の基本は音と文字。
  • 中国語の基本単位は「字(zì)」であり、西洋言語における「word」とは異なる。
  • 音と文字の組み合わせで意味を伝達する仕組みを解説。

第3章:语言的结构(下):语汇和语法(語彙と文法)

  • 語彙は概念の表象、文法は語の配列ルール。
  • 文法には言語特有の「投射構造」があり、現実世界の規則が反映される。

第4章:语言与文字(言語と文字)

  • 文字は言語を「保存・拡張・記録」する手段。
  • 中国語特有の「表意文字(漢字)」とアルファベット言語との違い。

第5章:语言与思维(言語と思考)

  • 言語は思考のツールであり、異なる言語は異なる世界観を持つ。
  • 「サピア=ウォーフ仮説」にも通じる視点で、言語と認知の関係を探る。

第6章:语言与社会(言語と社会)

  • 言語は社会に依存し、社会によって変化する。
  • 方言・標準語・言語接触・コードスイッチングなどを扱う。

第7章:语言学在科学体系中的地位(科学の中の言語学)

  • 言語学は自然科学と社会科学の両側面を持つ。
  • 他の学問との融合(心理学・情報科学・脳科学)との関係性。

第8章:中国の歴史言語学

  • 中国の古典文献における言語学的分析。
  • 『説文解字』『文心雕龍』などの古典を例に、漢語文法・音韻学の変遷をたどる。

第9章:中国の現代語法学

  • 『馬氏文通』などを起点とする現代中国語文法の確立。
  • 外来文法理論と国産文法理論の融合と対立。

第10章:言語の特色研究と国際接続

  • 中国語の独自性(語順・字単位・語彙制限など)を踏まえた言語学の国際化。
  • 中国語教育や対外漢語教育への示唆も。

📘この本から学べること(学習者向け):

中国語学習者や教育者は、以下のようなことを学べます:

学べるポイント:

  • 「字」と「word」は異なる概念であり、中国語の言語構造における基本単位は「字」である。
  • 文法や語彙の理解は、現実の認識の仕方と結びついている。
  • 中国語は「表意文字」に基づく特異な言語であるため、西洋言語の理論だけでは不十分である。
  • 言語学とは「どうして人は話せるのか?」を探る、とても根源的な学問である。
得られる内容 説明
中国語の構造的特徴の深い理解 「なぜそう表現するのか」が理論的に説明される
中西言語の違いを通じた中国語理解 語順、思考様式、文字の違いを通じて相対的に把握
教育的な応用可能性 他者に説明する力、学習者としての視点が鍛えられる
言語観の広がり 単なる「会話」から「記号」「思考」「社会」へと視野が広がる

💡読みどころポイント:

  • 中国語の構造と他言語との比較に焦点を当てている点
  • 「字本位」や「語法の体系」など、母語話者が気づかない中国語の特徴
  • 哲学的・社会的観点からの言語分析(思想とリンクしている)

徐通锵『语言学是什么』🎓 教育現場での活用方法:

この書籍は以下の形で教育現場に取り入れることが可能です:

  • 中国語教師向けのリファレンス教材
    • 「語彙の概念」や「字とwordの違い」など、学習者が混乱しやすい点を理論的に補強。
  • 言語学概論の副教材
    • 音声・文法・文字・思考の関係を学ぶ総合的教材として大学の教養科目に適す。
  • 対外漢語教育の指導理論として:
    • 教室で使う語彙・語順・思考表現の違いを「言語観」から説明できる。
  • 生徒への導入用読み物(抜粋):
    • 初級学習者でも理解できる比喩や例えが多く、コラム的に引用可能。

🧩 理論的なツッコミどころなど

以下のような批判や改善の余地が考えられます:

  1. 「字本位」の強調が過剰
    1. 中国語の分析を「字」中心にしすぎると、語の単位や統語関係の理解が歪む可能性。
    2. 実際の言語使用では「語(word)」の単位も重要。
  2. 記述言語学と教育言語学の境界が曖昧
    1. 一部で「理論」と「教育」の観点が混在し、目的が不明瞭な箇所もある。
  3. 英語・西洋言語との対比がややステレオタイプ
    1. 欧米言語=表音文字、線形的思考/漢語=表意文字、全体性思考と単純化されている点も。
  4. 国際的視点の不足
    1. 言語学の最新の理論(生成文法、認知言語学など)との関係が薄い。

✍️ まとめ:

『语言学是什么』は、言語学入門書としてだけでなく、中国語を教える・学ぶ・分析するあらゆる立場の人に役立つ貴重な教材です。特に「中国語とは何か」「字とは何か」「語法の背景にある思考とは?」といった、表層的な文法理解を超えた学習に役立ちます。

本書では、「字本位」の詳細な理論や具体的な応用については書かれていないので「字本位」についてはあまり理解できません。下記の記事で紹介している潘文国《字本位与汉语研究》のほうが詳しいので参考までに。

関連記事:【中国語】潘文国《字本位与汉语研究》の要約:10章の紹介と教育現場での応用

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tad

千葉県出身、東京育ち。貿易関係の会社で10数年ほど勤務後、5年の中華圏駐在経験を活かして独立。現在は、翻訳や通訳などを中心にフリーで活動中。趣味はゴルフ。好きな食べ物は麻辣香锅。東京外国語大学外国語学部中国語学科卒業。中国語検定準1級。HSK6級。

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