【中国語の前置詞】“被”の正しい使い方~日本人がしがちな誤用3パターンから分析する~

こんにちは!中国語漫画/字幕翻訳者のもりゆりえです。今回は、中国語の前置詞“被”の誤用パターンをご紹介します。『日本人学汉语常见语法错误释疑(增订本)』(杨德峰 著 商务印书馆出版)を参考に、日本語母語話者が間違いやすいとされる箇所を一緒に見ていきましょう。
中国語の前置詞“被”とは?
間違いやすいパターンを見る前に、まずは中国語の前置詞“被”の意味を確認していきたいと思います。
中国語の前置詞“被”を『精选日汉汉日词典(新版)』(商务印书馆)の汉日词典(bèi)の項目で調べると、以下のように書かれています。
(介)…に,…から,…によって[…れる,…られる]
こちらの日本語訳文を見たとき頭に浮かんだイメージも参考に、「日本語母語話者に多い」と言われる、3タイプの誤用パターンを見てみましょう。
誤用パターン①:“*黑板被老师擦。”
まず、ひとつめの誤用パターンの例文をご覧ください。
误:
①*黑板被老师擦。
②*衣服被我洗。
③*考试的事被大家忘。
中国語の文章は『日本人学汉语常见语法错误释疑』P252より
上の文章は、なぜ間違いなのでしょうか?
それは前置詞“被”を用いた文が、「【すでに起こった出来事がどうのように変化したか】や、【変化した結果、文中に登場する受け手がどのような影響を被ったか】を表すことが多いから」です。
つまり“被”を用いた文章では、動詞に何らかの補語や成分を加えて変化したことを表す必要があります。
それぞれを正しい形に修正すると、以下のような形になります。
正:
①黑板被老师擦了/黑板被老师擦干净了。
訳)黒板(の文字)は、先生に消され(て、きれいになっ)た。
②衣服被我洗了/衣服被我洗完了。
訳)服は私が洗った(直訳:服は私に洗われた)。
③考试的事被大家忘了。
訳)テストのことは、皆に忘れられた。
中国語の文章は『日本人学汉语常见语法错误释疑』P252より
ここでは、動詞“擦”や“洗”、“忘”に変化を表す“了”を加えたり、“擦”や“洗”の結果として“干净了(きれいになった)”、“洗完了(洗い終えた)”という変化を描写することで、“被”を用いた正しい形の受け身文と言うことができます。
誤用パターン②:“*我们被他笑了。”
続いて、誤用パターン②の例文です。
误:
①*我们被他笑了。
②*大家被老师糊涂了。
中国語の文章は『日本人学汉语常见语法错误释疑』P253より
上の文を見ると、誤用パターン①で指摘した‟動詞+了”の形になっていますね。では、これらの文章はなぜ問題があるのでしょうか?
それは前置詞“被”を用いた文に、不及物动词(自動詞)や形容詞が置かれているからです。そのため、以下のように他動詞を用いるなどの修正をする必要があります。
正:
①我们被他逗笑了。
訳)私たちは彼に笑わされた。
②大家被老师弄糊涂了。
訳)皆は先生に困惑した。
中国語の文章は『日本人学汉语常见语法错误释疑』P253より
実のところ、「中国語の動詞を不及物动词(自動詞)と及物动词(他動詞)に明確に分ける基準」については、研究者の間でも様々な意見があり、統一した見解はされていないと言われています(参照:【中国語】自動詞と他動詞とは?3つの分類法と6つのポイント – オンライン中国語コーチング・中国語学習ならPaoChai)。
そこで、「不及物动词(自動詞)と及物动词(他動詞)について、中国語ネイティブの人がどのように理解しているのか」を中国出身の友人に確認してみたところ、以下のような答えが返ってきました(※中国語教師などの中国語の専門家ではなく、一中国語ネイティブの感覚的な見方としてご覧ください)。
能接宾语是及物动词,不能接宾语是不及物动词。能改‟被”字句是及物动词,不能改就是不及物动词。
訳)目的語と接続できるのが他動詞、目的語と接続できないのが自動詞。「被(受け身文)」を作れるのが他動詞、作れないのが自動詞。
そして誤用の例として紹介した上記の‟*我们被他笑了。”という文章については「‟笑われた(バカにされた)”という意味で使わなくないが、やはり文法的には違和感がある」のことでした(※‟我们被他逗笑了。”の意味は「私たちは彼に笑わされた。」であり、意味が異なることに注意)。
友人によると、文法的に違和感のない「笑われた(バカにされた)」という意味の文章としては、例えば“我们被他嘲笑了。”の形が挙げられるとのことです。
中国語の自動詞と他動詞の分類については、先述したように研究者の間でも見解が分かれており、紙面の都合上こちらの記事で全ての説を紹介することはできませんが、台湾大学国際華語研究所の下記の分類表が分かりやすくまとめられているため、“被”を用いた中国語の受け身文を作る際の参考になるかもしれません。
(参考:漢語動詞的句法搭配與教學應用-許秀霞 7ページ)
中国語の自動詞、他動詞についてさらに詳細な解説が知りたい方は、個人的には「中国語における自動詞と他動詞の分類について(木村 裕章)」という論文が非常に参考になりましたので、こちらの論文と併せて中国語の動詞を分析してみるのもオススメです。
誤用パターン③:‟*这瓶啤酒被他喝得完。”
最後にご紹介する誤用は、以下のようなパターンです。
误:
①*这瓶啤酒被他喝得完。
②*自行车被警察找得到吗?
中国語の文章は『日本人学汉语常见语法错误释疑』P253より
上の文章のどこに問題があるのでしょうか?
結論から述べると“被”を用いた文章に、可能補語を用いている点です。“被”を用いた受け身文では、動補構造(※)を用いた短文を接続することはできますが、動補構造のひとつである可能補語は用いることができません。
可能補語とは、例えば“听得懂(聞いて分かる)/听不懂(聞いて分からない)”のように、「動詞(ここでは‟听”)と結果補語(ここでは‟懂”)または方向補語の間に‟得”や‟不”を用いて、主観的・客観的条件から補語の表す結果が実現可能かどうかを表す表現です。
そこで上記の誤用文を正しい形に修正するためには、可能補語の形を用いずに助動詞“能”を加える必要があります。
※動補構造:2つの構成要素「動詞(述語)と補語」が前後で組み合わされた構造のこと。動詞の後ろに置かれる補語は、動詞の表す動作行為の状況、結果、場所、数量、時間などを補足説明するために用いる。
正:
①这瓶啤酒能被他喝完。
訳)彼はこのビールを飲みほした。
②自行车能被警察找到吗?
訳)自転車は警察が見つけてくれましたか?
中国語の文章は『日本人学汉语常见语法错误释疑』P254より
★★★
いかがでしたか?
私も含め、今回ご紹介してきたような誤用に心当たりのある方もいたのではないかと思います。それぞれが持つ日本語の受け身文を使うときの習慣や、辞書に書かれた日本語訳文のイメージにつられてしまうなど、日本語の受け身文を使うときにはなかなか意識しにくい部分(「変化の結果よりも変化をもたらした対象に意識が向きがち」など)があることに、指摘されて初めて気づかれた方もいらしたのではないでしょうか。
日本語母語話者には難しいことも多いですが、今回の記事が中国語文法の面白さに触れるきっかけになれば幸いです。
注➀:記事中の*印の文章は、全て誤用。
注➁:記事中の日本語訳、引用文の文字色変更などは全て筆者による。
参考文献:『日本人学汉语常见语法错误释疑』(增订本) 杨德峰 著 商务印书馆出版
参考URL①:中国語 文法 受身文:解説
参考URL②:中国語 文法 可能補語:解説
参考URL③:【中国語文法】動補構造とは何か | aking.me
参考URL④:漢語動詞的句法搭配與教學應用-許秀霞
参考論文:「中国語における自動詞と他動詞の分類について」(木村 裕章)

もりゆりえ
広島県東広島市出身。尾道市立大学美術学科卒業。高校時代に読んだ漫画「封神演義」をきっかけに中国語学習を開始。大学卒業後中国に渡り、浙江大学に10ヵ月間の語学留学(2005年〜2006年)をする。留学中に、「第二届中国国際動漫画節」に参加。現在はフリーランスの中日漫画翻訳者として活動中。趣味は中国のマンガアプリでマンガを読むこと。
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