中国語【文法】の超体系的な学び方を解説!おすすめ参考書4冊

勉強法・学習メソッド

中国語を学習中のみなさん、こんにちは!PaoChaiの冨江です。

中国語を始めると「文法」の勉強をすることになりますが、この文法の学習は、一体どこまで詳しく学習すればいいのか?書店に行けば、山程ある中国語の文法書からどれを選べばいいのか?

今回は、中国語を身につける上で、そもそも文法についてどう考えるべきか?そして、具体的にどのような学習法がいいかを考えてみたいと思います。

1.会話力のための中国語文法

1−1.より大きな目的から文法学習の目標を定める

まず、中国語を何のために学習するのかを考えましょう。

中国語会話(つまり、話す、聞くがしっかりできるようになること)が目標であれば、そこまで高度な文法理論を理解する必要はないでしょう。(文法の研究者になる、中国文学を研究する、などの目的であれば、学習法は変わってきます)

では、会話できる能力を目的にする場合、文法学習では何を目標にすればいいでしょうか?

1−2.長文読解の各文の構造を理解する

1つの答えとして提案したいのは、長文読解で各文の構造を理解できる、という目標です。構造とは、文を構成する各語の関係であり、文成分を把握することです。これができれば問題ありません。

あまり、このように文法学習の目標を立てる人はいません。しかし、ここがはっきりしないと、文法学習全体がどこに向かっているのかはっきりせず、いつまでも会話できるようになる目的に到達できません。ある種の割り切りが学習の効率を高めます。

1−3.会話力のための3段階勉強法

文法の勉強法

上記のように文法を位置づければ、全体像がはっきりします。

PaoChaiでは会話力を中心に中国語力を高めていきます。会話力があることは、読解や作文の能力にも通じます。まず、基礎段階では、理論的に文法を知識として理解し、中国語の文を構造的に理解できるようにします。今回は文法に焦点を当てていますが、この段階では発音の基礎を固めることも最重要課題です。詳しい中国語の発音の勉強法はこちらをご覧ください。

そして、次のコア能力段階では、様々な文法項目が散りばめられた中国語の文章を、声に出して音読することで、文法の運用力をつけていきます

この段階では、長い文章の意味と構造を理解して音読することが重要になります。その際に、文法理論を使って文章を構造的に把握する必要が出てきます。会話力を向上させるためには、文法をそのように位置づけると進むべき道がはっきりします。

最後に、実践能力として、より実践的に沢山の中国語を文法的な分析の視点で理解し、自分の状況での運用力を鍛え、より瞬発的な力に変え、感覚を磨きます

多くの学習者は、最初の基礎段階で止まってしまっていることがほとんどです。これでは、文法を使えるようにはならず、ただ知識として文法用語の解説ができるだけです。実際に文法を文脈の中で使えるようになるには、その先のコア能力、実践能力の段階へ進む必要があります。

以上、中国語会話の習得理論を紹介しましたが、詳しい全体像は中国語の戦略的な勉強法をご覧ください。

2.中国語の文法の特殊性(品詞と文成分)

中国語文法の特徴

2−1.中国語の品詞はどう決まるか

動詞、名詞、形容詞、連体修飾、連用修飾、主語、述語、目的語などなど、

中国語の文法教科書を読むと、英語学習で聞いたことがあるような文法用語が、当たり前のように出てきます。

しかし、こうした中国語の文法用語は、英語で習ったものとは根本的に異なります。まずはそれを理解しましょう。

中国語には、語形の変化(活用)がありません。例えば、英語ならbe動詞が、was、were、beenなど一つの語が文法的な意味の機能に応じて異なる形に変化します。また、接尾辞 -tyがあれば名詞(例えば、ability:(能力))と判断できるような文法上の標識があります。このような語形変化が中国語にはありません。

英語のような言語であれば、語形からそれぞれの単語の文法的性質を知り、品詞を決めることができます。しかし、中国語の場合は、1つ1つそれぞれの語と他の語との結びつきや関係を把握して品詞が決められます。さらに、その際には意味や文脈も考慮する必要があります。

なので、英語学習で使っていた品詞などの文法用語の考えをそのまま持ち込むことはできません。

2−2.究極的には各語の用法

中国語の文法は1つ1つの語の使い方の説明に行き着くという考え方もあります。中国語業界で有名な呂叔湘主編『現代漢語八百詞増訂本』という本があります。

この本は、「虚詞」(副詞・介詞・接続詞・助詞など)を中心に約1000語が収録されており、単語帳や辞書のような体をなしています。しかし、日本語版「中国語文法用例辞典」の序文で著者は「本書は中国語の文法(語法)書である」と述べており、中国語の文法は突き詰めれば1つ1つの単語の使い方を説明することになるということを示唆しています。

厳密な理解は置いておいて、中国語の文法を学ぶ場合は、英語学習の知識をそのまま当てはめず、改めて「中国語学習における品詞や文成分などの根本的な文法用語」を理解し直していただきたいと思います。

2−3.そもそも文法の根拠は一般的用例

たまに、学習者の中に、言語における文法とは絶対的なルールであり、これに基づいて運用するのが正しい言語使用だ、のように考えている人がいます。

これは大きな間違いです。文法のルールの根拠は、実際にわれわれが使っている言語使用です。最終的には、「なんかこの表現おかしい」というような感覚です。

これは英語、日本語、中国語の文法、どれでも同じです。例えば、中国語であれば相原茂『中国語学習ハンドブック』によると、一般的に、「文法としてまとめられた本において、現代白話文によって著された代表的著作に見えるものを標準とする」「具体的には魯迅や毛沢東をはじめとする著名な作家の作品や何度も推敲を経た社説や憲法条文などを考えればよい。」「つまり共通語の文法はこれらの著作の「一般的用例」から帰納されるべきものと考えるのである。」とあります。

何かしら正しいと思われる実際の言語使用(文章など)を基に、そこからルールを見つけてまとめたものが「文法」です。

全てを完璧に説明できる文法はありません。

文法の教科書を読むときはこうした背景を理解した上で読んでいきましょう。

2−4.中国語の文成分と品詞

中国語の文法書で抑えておくべきは、文成分と品詞です。文成分と品詞についての説明はたまに教科書で見かけますが、それらを何のために学ぶのか?について述べているものは見たことがありません。それをしっかりと自分なりに理解しておく必要があります。

文成分がわかれば、文章を構造的に捉えることができます。主語、述語、補語など、各語の役割を見出すことができます。

また、ある新出単語の品詞がわかれば、その使い方がある程度わかります。「副詞」という品詞の単語であれば、動詞や形容詞を修飾する状語(連用修飾)になる、というようなことです。

(ただし、中国語の品詞は上述のように英語とは異なります。動詞がそのままの形で、主語になるようなこともあるので、そういったことを理解しておきましょう。)

文成分と品詞について詳しくは下記の記事を参考にしてみてください。

【中国語】文成分と品詞とは何か?学習にどう役立つかを解説

3.基礎段階:文法理論を理解し、中国語の文の意味を構造的に理解(おすすめ参考書)

中国語の文法書

まず、第一の段階では理論的に文法を理解し、中国語の文を精読し、構造的に意味理解できるようにします。中国語の文は、文として何かの意味を作る上でどのような機能を担っているかで、6つの文成分に分けられます(主語、述語、目的語、定語(連体修飾語)、状語(連用修飾語)、補語。まずは、重要な「主語」と「述語」を特定し、その他の文成分との関係を把握してください。(詳しい精読の方法はこちらを参照)

※構造を厳密に分析しようとすると様々な矛盾、問題が生じます。会話能力を目的にした学習では、文法は文の意味を取るために、構造を理解することであり、全てを一つの方法で説明しようとするような方法論の研究ではありません。後者に興味がある方は、中国語文法学史稿 (関西大学)(第4章12節)にどのような問題があるのか概要がまとめられていますので、参照してみてください。

以下、文の構造分析の土台となる文法知識を得るための教材を紹介します。

3−1.最初の1冊『中国語の基礎 発音と文法 (NHK CDブック)』

三宅登之『中国語の基礎 発音と文法 (NHK CDブック)』はおすすめです。本書は全部で25課あり、各課で新しい文法項目が導入されていきます。動詞述語文とか、形容詞述語文とか、補語とかです。少し解説が足りないと思うこともありますが、深入りしすぎない簡潔な説明がちょうどよく、一般的に基礎として学ぶべき文法項目が、把構文や複文などまで全て出てきます。あまり簡単な文法書から始めると、二度手間になるので網羅性は重要です。

さらに、この本が良いのは、全ての課の冒頭で、8つの中国語例文が示され(25課合計で200文)、その例文を理解するために文法項目を学ぶ、というような形で整理されている点です。第2段階で音読が必要ですが、そのためにもちょうど良い作りになっているので、PaoChaiでもこの本を使っています。

欠点は、品詞や文成分の説明がないことです。動詞、形容詞、名詞などがそもそも何を意味するのか?文成分とはなにかの解説されないままに文法用語が使われています(ほとんどの教科書がそうなのですが。。)さらに、中国語文法で重要な学習項目である字、語、単語、フレーズから文の成立までの解説もありません。

3−2.通読もできる参考書(丸尾誠『基礎から発展まで よくわかる中国語文法』)

丸尾誠『基礎から発展まで よくわかる中国語文法』は、通読してもいいですし、体系的に整理されているので、ことあるごとに参照する参考書的な使い方もよいでしょう。タイトルの通り基礎から発展まで幅広くカバーしています。上述の『中国語の基礎 発音と文法』でも文法項目としてはほぼ網羅していますが、こちらではさらに各項目を掘り下げて解説しています。

良いところは、字→形態素→語(単語)→フレーズ→文の成立の流れが書かれているところです。一方で、そもそも論としての品詞や文成分の説明がないのはデメリットかもしれません。

3−3.市販教材では最も詳しい文法書(輿水 優『中国語わかる文法』)

輿水 優『中国語わかる文法』は、一般的に入手しやすい文法書としては最も詳しいレベルの1つです。重要な文法の学習項目を全て網羅しています。そもそも、こちらの本は、著者の輿水優さんが作成された中国語初級段階学習指導ガイドライン(※)に基づく文法書です。初級で学ぶべき項目が全てカバーされ、1つ1つの項目も詳しく解説されています。初級と書かれていますが、実際は市販教材ではかなり詳しく細かい方です。

※このガイドラインは、中国語教育学会学力基準プロジェクト委員会(2004年4月~2007年3月)が編纂し、同委員会代表者の輿水優先生が中国語教育学会第5回全国大会(2007年5月12日、於 関西大学)の特別講演会で報告された資料です。上記サイトで詳細のPDFファイルが閲覧可能。

字→形態素→語(単語)→フレーズ→文の成立の流れから始まり、文成分、品詞と学びやすく、本格的な内容にまとまっています。デメリットとしては、初級といいつつ、その後の中級以降の学習内容が示されていないのでどのような全体像で初級なのかよくわかりません。(「初級」というからには、上級までの道筋まであればよいのですが)

3−4.日本語で読める記述文法の書(朱 德煕『文法講義』)

一般的に「文法」という場合、「規範文法(学校文法)」と「記述文法」の2種類があります。前者は、学校文法とも呼ばれるように、中国語を教えたり、学ぶ場を想定して、中国語を正しく使えるように、教育的な視点で文法ルールをまとめたものです。これまで紹介した教科書はすべて規範文法です。一方、後者の記述文法とは、中国語を言語学の視点から研究するため、中国語母語話者のそのままの言語使用をベースに整理されたものです。学校文法であっても、教育の立場で中国語の特徴を伝える必要があるので、記述文法をベースに学習者がわかりやすい体系としてまとめる必要があるでしょう。

前置きが長くなりましたが、1982年に出された朱 德煕『文法講義』文法史の中でも著名な記述文法の文法書です。日本語に翻訳されている貴重な参考書となります。

形態素、語、フレーズなどから文法単位が説明され、語の構造、品詞と進み、各品詞の説明のあとに、動目構造、動補構造などフレーズの構造へと移ります。上述のガイドラインやその教科書である輿水 優『中国語わかる文法』では、现代汉语词典第五版を参照し12品詞に分類されていますが、『文法講義』では時間詞、区別詞、擬声詞、感嘆詞などを含む17品詞に細かく分けられています。文の成立やフレーズの種類などについて、上述の参考書よりも詳しく書かれているので興味のある方は是非読んでみてください。

4.コア能力:中国語を音読し、自分の中に文法の運用力を根付かせる

中国語コア能力

基礎能力として文章の構造を捉え意味理解できるようになれば、次の段階は文法を運用できる(使える)ようにするためのトレーニングを行っていきましょう。

ここでおすすめは音読ジョグトレーニングです。音読ジョグ(ジョギングとは、「一定の長さのある中国語」を徹底的に聞き、話すことで、その養分を吸収し、“話せる、聞ける”語彙・表現力、さらにはその背後にある文法運用力を高める(コア能力の向上)トレーニングです。

音読ジョグとは、1つの中国語の音源(音声ファイル)と文章(文字で書かれた中国語)を使って、以下3つのトレーニングを行います。

  1. 耳作りトレーニング 完全に聞き取る
  2. 口作りトレーニング 完全に書き取り、真似する
  3. 脳作りトレーニング 完全に理解し、話す

中国語音読の意義についてはこちらをご覧ください。また、具体的なやり方は、音読ジョグトレーニングマニュアルを参照ください。(それぞれのページで、各トレーニングの目的、目標、やり方を十分理解してから取り組んでください。

基礎段階で学んだ文法項目が一通り出てくるような文章を使って、その構造と意味を十分理解した上で、声に出して読みます。まずは、2000〜3000語程度の語彙の文章をものにしましょう。この段階では、中国語作文のトレーニングも効果的です。

5.実践能力:文法的視点を持ち、たくさんの中国語に触れ、文脈の中で使う

5−1.文法的分析の視点を持ち、たくさんの中国語を読んだり聞いたりする

最後の実践能力の段階では、読書(多読)をおすすめします。小説やビジネス書、エッセイなど何でも良いですが、中国で中国人が読むような本を沢山読んでいきましょう。そのときに、文法的な分析の視点で文章を読むことです。

先の構造分析ほど詳細にやらなくてもいいですが、文の中で語の関係や機能を理解しながら読解し意味をとっていきます。読書だけでなく、ポッドキャストやテレビドラマなど音声に触れるのも良いでしょう。この最終段階のポイントは、実際にネイティブが使う言語使用に沢山触れることです。

私はこれまで数十冊は中国語の本を読んできましたが、文法が理由で読書に躓いたことは(記憶の限り)ありません。わからないことは多々ありますが、それは新出単語であったり、知っている単語であってもその文脈でどのような意味になるのか?など、単語に関わることです。

HSK6級に合格するくらいであれば、語彙制限などされていない中国の書店で売っている興味のある本を1冊買ってチャレンジしてみましょう。7割くらい意味がわかり、基本的に辞書はあまり使わなくても理解できるものが良いです。

5−2.文法項目を自分の状況で使ってみて、文法の運用力や感覚を磨く

アウトプットよりの実践も必要です。1つは、作文トレーニングです。作文については瞬間中作文、借文、自由作文がありますが、ここでいうのは、自由作文です。もう一つは、会話トレーニングです。ネイティブとの実際の会話で、話すことです。瞬時に頭の中で作文し、発話する必要があります。

6.リアルな中国語に沢山触れる

中国語実践

以上、中国語会話力を高めるための文法学習について書きました。文法学習についてはシンプルに考えていきましょう。まずは、基礎固めで文法理論を頭に入れ、文成分の構造分析をして意味理解できるようにします。次に、語彙学習とも共通する音読ジョグトレーニングで、意味と構造を理解した中国語を沢山声に出して読みます。

その後は、勉強というよりは実践です。より瞬発的な力をつけるために、文法の分析観点を持ちつつ小説やビジネス書、自伝などリアルな中国語にたくさん触れ、また一方で、作文や発話などアウトプットをしていき、自分で状況に合わせた中国語を表現できるようにしましょう。

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冨江コーチ

東京都出身。早稲田大学国際教養学部卒業。中国ビジネス10年(日本のゲーム、アニメ等コンテンツの中国展開に従事)、中国在住5年(上海、南京)の経験を活かし、実践的な中国語学習のサポートをいたします。2016年から語学の道に転身。大学院で第二言語習得、言語、哲学の研究を行いながら、中国語と日本語を教える。趣味は、中国各地の麺類を食べ歩くこと。新HSK6級。復旦大学短期留学(2007年)。The Australian National University修士号、早稲田大学国際コミュニケーション研究科修士課程修了。

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