【中国・南京旅行記(2006年)】トラブル続発?留学生が南京で実感した、日本人に大切な心掛けとは(後編)

中国文化・歴史中国留学

 こんにちは!中国語漫画翻訳者のもりゆりえです。前編の記事では「南京市に行こうと思った3つのきっかけ」をご紹介しました。今回は後編の「南京旅行 実践編」として、日本人旅行者として南京を訪れた際のエピソードとそのとき実感したことを、皆さんにご紹介します。

留学半年後に1泊2日で南京へ!

 留学を始めて半年が過ぎた頃(2006年4月頃)、道の尋ね方や買い物の仕方が支障なく行えるくらいの日常会話ができるようになったタイミングで、1泊2日の南京旅行に行くことにしました。せっかくなのでゆっくりあちこち観光したかったのですが、時間とお金の関係から、今回は南京大虐殺記念館での見学をメインに据えた旅行にしました。

 杭州からバスで南京へ向かい、まずは長江が望める「南京長江大橋(南京长江大桥)」を見てから、バスで「南京大虐殺記念館(侵华日军南京大虐杀遇难同胞纪念馆)」に行き、市内の大学の留学生寮兼ホテルで宿泊するという行程です。日本人の友人も一緒に行きたいと言ってくれたので、日本人女子ふたりで南京市へ行くことになりました。

「自力更生」の象徴、南京长江大桥

 南京长江大桥に着いたときは、まずは橋脚の巨大に圧倒されました。橋脚の中には70mのエレベーターが設置され、橋の上段から景色を見ることができます。

 南京长江大桥は、上段の道路(4589m)と下段の線路(6772m)から成る橋です。長江にかかる橋として武漢、重慶に続き3番目に建設され、1968年に完成しました。初めて中国人技術者が自力で作り上げた橋ということで、「自力更生(他人の力を頼らず、自力で物事を行うこと)」をスローガンに掲げていた、中国共産党の象徴的な橋とされています。

 私たちが訪れたときは人もまばらで、資料館にもスムーズには入ることができました。資料館には、橋が完成するまでの歴史資料が紹介され、巨大な毛沢東像と共に共産党のスローガンが掲げられていました。

 エレベーターで橋の上まで上がると、橋の上からは長江と共に、南京の街の様子も一望できました。文化大革命中に完成した橋ということもあり、橋の上には社会主義を象徴するような青年像が建てられています。その青年像が見下ろす南京市街と、広大な長江が同時に望めるのが、とても印象的でした。

南京大虐殺記念館へ行こうとするも…

 橋での観光を終えて、南京大虐殺記念館に向かうためのバスを探しましたが、どの路線のバスに乗れば確実に記念館に辿り着けるのか、いまいち自信が持てませんでした。私が南京を訪れたのは今から20年近く前のことなので、旅行前に購入した現地のパンフレットや、自分の寮であらかじめ調べた情報のメモを頼りに行くしかありません。

 不安になった私は、ちょうど近くを通りかかった男性に聞いてみることにしました。「すみません、南京大虐殺記念館に行きたいのですが…」と話しかけると、よく聞こえなかったのか聞き返されました。そこで私がもう一度「南京大虐殺記念館に…」と言うと、怪訝な表情をして無言で立ち去ってしまいました。

 私は一瞬、何が起こったのか分かりませんでした。そこでもう一度違う通行人(女性)に、同じように尋ねてみたのですが、その方にも答えてはもらえませんでした。

 ふたりの通行人が、答えてくれなかった理由は分かりません。ただ単に私の話す中国語が聞き取れなかったのかもしれませんし、もしかしたら私の聞き方がその方々の気に障ったのかもしれません。

 少なからずショックを受けましたが、なんとかして記念館にたどり着かなければなりません。あれこれと考えた挙句、南京大虐殺記念館のひとつ前のバス停への行き方を尋ねてみることにしました。たまたま近くを通った若い女性にそのバス停の場所を聞くと、バス路線をすぐに教えてくれたため、なんとか記念館に行くことができました。

緊張の余り、一言も発せなかった記念館

<正面から撮る勇気がなく、こっそり横から撮影した「南京大虐殺記念館」の入り口>

 なんとか目的地の記念館に着いてほっとしたものの、先ほどのバス停の一件があってから一緒に来ていた日本人の友人も、口数が少なくなってしまいました。そして「記念館では極力日本語では話さないようにしよう」と決めてから、入館しました。

 記念館に入ると、照明が控えめに照らされた部屋に、写真などの資料が数多く展示されていました。たまたま中学生らしき学生の集団を、先生とみられる女性が引率していたので、後ろからこっそりついて行って、彼女の解説を聞いてみることにしました。

 そのときの私の中国語力では、全ての解説は聞き取れなかったのですが、展示資料の内容から察すると、おびただしい数の南京市民の犠牲者が埋められたという話をされているようでした。生徒たちも険しい表情で、彼女の話を聞いていました。彼女のよく通る力強い声が室内に響き渡り、空気が張り詰めているように感じました。

 私と友人はしばらくその話を聞いていたのですが、やがていたたまれなくなってしまい、お互い目くばせをして、その場をそっと立ち去りました。その後もなんとなく居心地が悪いように感じて、展示物をじっくり見る余裕が持てずに、どことなくそわそわしながら館内を見学していました。

ホテルに向かうタクシーで、料金をぼられる

 記念館を後にして、予約していた市内の大学の留学生寮兼ホテルにタクシーで向かいました。ふたりとも疲れてタクシーの中でもほとんど会話をしなかったのですが、ふと気が付くとタクシーが段々、街灯の少ない路地のようなところに進んでいるように見えました。すでに日が暮れて、辺りはすっかり暗くなっています。

「え?留学生寮がこんなに暗い所にあるの?」と不安になっていると、タクシーの運転手が車を止めて明らかに高額な料金をふっかけてきました。

 私が中国に行った当時は、「料金メーターを倒さずに高額なタクシー料金を請求するタクシーには注意しろ」とよく言われていたため、中国でタクシーに乗るときは必ず料金メーターがゼロになっているのを確認してから乗るようにしていました。そのときもメーターを確認してから乗ったのですが、そのタクシー運転手は料金メーターに表示された実際の料金より、明らかに高い値段を請求してきたのです。

 私と友人が驚いて抗議しましたが、人気のない暗い路地で「払わないと降ろさない」と男性の運転手に凄まれたら、なす術がありません。仕方なく言われた料金を払ってタクシーを降りると、そこは目的の大学の裏門でした。

人しての「配慮」は必要、でも「遠慮」はもったいない

 

<南京大虐殺記念館に設置された鐘。下には小さく「和平(平和)」の文字が>

 1泊2日の短い南京旅行でしたが、私にとって非常に印象的な旅行となりました。記念館に向かう道中や、タクシーでの出来事が、私たちが日本人だと分かったから起こったことなのかは、正直私には分かりません。ただそのようなネガティブな体験をしたときに「自分が日本人だからではないか」と真っ先に思ってしまうことこそが、南京を訪れる日本人が陥りやすい感覚なのではないかと思います。もし同じ出来事が他の町で起こっていたら、もしくは自分が日本以外の国の人だったら、果たしてどのような感想を抱いたでしょうか。

 何かネガティブなことが自分にふりかかったときに「自分が日本人だからだ」と考えてしまうことは、同時に相手のことも「中国人」と一括りに捉えていることになります。そこには、人をひとりひとり違う人格としてでなく、「○○人」とカテゴライズすることで、ネガティブな事柄に理由や名前をつけて分かった気になり、安心したいという心理が働いているように思います。

 日本人として南京を訪れる際は、「日本人だからこそ特別に必要な配慮がある」というよりも、「人として当然の配慮」を徹底してすべきだと私は思います。仮に「人として配慮に欠ける行動(例えば、南京大虐殺記念館のような戦争関連の施設でふざける、騒ぐなど)をしたのが「日本人」だと分かった場合、他の国の人に同じことをされるより、ずっと不愉快に感じる中国の方がいるという事実は、肝に銘じておかなければなりません。

 しかし逆に「自分が日本人だから」と必要以上に委縮し遠慮してしまい、南京の街や人々と直接触れ合える機会を逃すのも、もったいない話です。特に戦争に関わる施設の役割が「戦争の記憶を後世に継承し、平和を考える」ことにあるならば、まずは自分を○○人という枠から外した上で「ひとりの人間として、何ができるか」という視点に立つ必要があるからです。

 南京に行った当時の私は少し委縮してしまい、見学も遠慮がちになってしまいました。それはそれで得難い経験でしたが、心残りがあるのも、正直な気持ちです。今思えば「ヒロシマ出身」の自分を、強く意識しすぎていたのかもしれません。そのため皆さんがもし南京に行く際には、あまり「日本人だから」と気負ったり意識しすぎず、ひとりの人間として配慮が必要な場所で適切な行動をとれば十分だと、私は思います。

 私も機会があればまた南京市を訪れて、南京大虐殺記念館とともに、あのとき見て回れなかった南京市内の街もゆっくり巡ってみたいと考えています。

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もりゆりえ

広島県東広島市出身。尾道市立大学美術学科卒業。高校時代に読んだ漫画「封神演義」をきっかけに中国語学習を開始。大学卒業後中国に渡り、浙江大学に10ヵ月間の語学留学(2005年〜2006年)をする。留学中に、「第二届中国国際動漫画節」に参加。現在はフリーランスの中日漫画翻訳者として活動中。趣味は中国のマンガアプリでマンガを読むこと。

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