【中国語】「日中同形異義語」ってご存知ですか?辞典著者が4タイプを解説!
日本と中国との往来は古く、その中で言語の交流は主な内容の一つです。従って、今でも日本では多くの漢字を使っています。今日、日本と中国の交流の拡大により、中国語を母語とする者の日本語学習人口、日本語を母語とする者の中国語学習人口はかなりの数に上がると思われます。
その理由の一つとしては、双方の学習者は中国語でも日本語でも漢字を使用することから、その習得は欧米言語に比べ容易であると感じているかもしれません。
しかし、日中両国の言語で同じ漢字を用いてできた語彙でも意味やニュアンス、使用範囲は同じものがあれば違うものもあります。中国語を学ぶ際、同じ漢字からなる言葉は日本語と「同形」であっても意味的に異なるものが意外に多いことを感じていませんか?こういう現象は、「日中同形異義語」と呼ばれています。
本日はこの「日中同形異義語」について、数冊の書籍や辞典の著者の立場から解説したいと思います。
目次
「日中同形異義語」とは?
同じ漢字からなる言葉は日本語と「同形」であっても意味的に異なるもは「日中同形異義語」と呼ばれます。「日中同形異義語」は日本語学習者にも中国語学習者にも一つ壁になっていると言っても過言ではないと思います。私は1990年代に留学生として日本に来ました。
日本の土地を踏んだ当時から日本でいたるところで漢字が用いられていることに気づき、日本語の勉強は容易ではないかと勝手に思ったことがあります。しかし、その後、日本語を多く覚えるようになることにつれ、日本語に文字が中国語と同じであっても(略字を考慮しない場合)、意味や使い方などは違うものがたくさんあることにも気づきました。今でもむしろ、日中同形同義語の学習より日中同形異義語の勉強はかなり苦労しています。
書籍紹介:日中同形異義語1500
日本語と中国語の「勉強」「学習机」
例えば、「勉強」という言葉は日本語にも中国語にもあります。日本語の学習者にとって「勉強」はだれもが先に覚える言葉だと思います。しかし、中国語の“勉强”と日本語の「勉強」は意味的にまったく異なり、私にとっても当時は面白く感じた日中同形異義語の一つでした。では、例を挙げて見てみましょう。
「勉強」(べんきょう/miǎnqiáng)
日本語の意味:
(1)学問や知識を身につけるために学ぶこと。
・私は日本語を勉強している。(我在学习日语。)
(2)有益な見聞や経験を積むこと。
・お話を聞いて大変勉強になった。(听了您的话我受益匪浅。)
(3)値引きすること。
・ご予算に合わせてできるだけ勉強する。(根据您的预算尽量给您便宜。)
中国語の意味:
(1)いやいやながらであるさま。
・他勉强答应了我的要求。(彼はしぶしぶ私の要求を入れた。)
(2)無理に強いること。
・不要勉强别人做他不愿做的事情。(他人に無理強いしてその人のやりたくないことをやらしてはならない。)
以上のように中国語と日本語の例文を比較することによって、日本語の「勉強」と中国語の“勉强”は意味も使用範囲もかなり違うことがお分かりになったでしょうか。そういうことで、以降、日本語学習者に日本語の「勉強」を説明する際、日本語の「勉強」は中国語から見れば「無理矢理」の意味だから、学習ということはやはり苦労をして無理矢理することですねとよく冗談で言っていました。
「学習机」
また、日本に来てまもなくのところ、同形異義語による誤解した経験も忘れがたいものです。私は日本留学のため、妻と小学校に入学したばかりの娘を中国に残して日本に来ました。
ある日、買物に行ったとき、ショッピングモールの案内板に「6階 学習机」の文字を見て、娘の勉強に役立つものがないと思って6階に直行しました。なぜかというと、「学習机」と言えば、中国語で「学習用の機器」という意味であるからです。しかし、6階に着いたら目の前に多くの机が広がっているだけ、隅々まで探してみましたが、学習用の機器はまったくありませんでした。後で日本語の「学習机」は子どもたちの勉強用の机で、意味は中国語の「机」(機の簡体字)と全然違うと分かりました。
日中同形異義語の4タイプ
実は、留学生時代に「日中同形異義語」現象を感じて以来、日本語を学習するときも使用するときもその違いに気を付けるようになり、中国語を教えるときでも中国語学習者に日中同形異義語を学習のポイントの一つとして強調しております。
さあ、日中同形異義語は一体どのようなものかを具体的に見ていきましょう。日本語と中国語の同形異義語を意味的に分析し大きく分類すれば、次の4タイプにまとめることができます。
(1)同じ意味の部分をもち、同時に日本語に異なる意味があるもの
例:「表情」(ひょうじょう/biǎoqíng)
同じ意味:顔の表面に表われたようす。
・表情が豊かな西洋人/表情丰富的西方人。
・她流露着悲痛的表情/彼女は悲しそうな表情を見せた。
異なる意味:ある場所などのようすや状況。
・それでは、各地の正月の表情をお伝えしましょう/下面报道一下各地新年的情况。
(2)同じ意味の部分をもち、同時に中国語に異なる意味があるもの
例:「上下」(じょうげ・うえした/shàngxià)
同じ意味:
①位置的に上と下。
・この絵は上下が逆さになっている/这幅画上下颠倒了。
・把箱子里的东西上下调整/ボックスの中身を上下に調整する。
②ものが上がり下がりすること。
・階段を上下する足音/上下楼梯的脚步声。
・透过玻璃可以看到上下的电梯/ガラス越しに上下するエレベーターが見える。
③書物などで二部に分かれて一組になっているもの。
・上下二巻の資料/上下两卷的资料。
・这部小说是分为上下两部出版的/この小説は上下二巻で出版された。
中国語の意味:
①おおよその数量。
・三十岁上下的女性/30歳前後の女性。
②年齢的に上の人と下の人。
・全家上下都非常高兴/家中が非常に喜んでいた。
③程度の優劣。
・这两个球队的实力难分上下/二つのチームの実力は優劣につけがたい。
(3)同じ意味の部分をもち、同時に日本語・中国語とも異なる意味があるもの
例:「入口」(いりぐち/ rùkǒu)
同じ意味:建築物などの、入っていくところ。
・会議室の入口/会议室入口。
・高速公路入口/高速道路の入口。
異なる意味:
日本語の意味:ものごとの最初の段階。
・芸の入口に立ったばかりだ/刚开始学习技艺。
中国語の意味:口の中に入れること。
・外用药品,不可入口/外用の薬につき、服用を禁止する。
(4)同じ意味はもたず、日本語・中国語それぞれに異なる意味があるもの
例:「看病」(かんびょう/ kànbìng)
日本語の意味: 病人の世話をすること。
・最近、寝たきりのおばあさんの看病をしている。
・私がコロナに感染した時、母はつきっきりで看病してくれた。
中国語の意味:
①医者が診療すること。
・王大夫正在给病人看病/王医師は患者に診察をしている。
②医者の診察を受けること。
・我周三去医院看病/私は水曜日に医者に診てもらうために病院に行く。
最後に:「日中同形異義語」専門書をご紹介
以上のように字形から見た日中同形異義語は様々なタイプがあり、数も多く存在しているゆえ、中国語学習と日本語学習の課題の一つになっていますが、その中で最も覚えやすいのは意味がまったく異なる同形異義語かもしれません。例えば、
「手紙」(てがみ/shǒuzhǐ)
日本語の意味:考えや用件などを記して送る文書。
・インターネットの普及で手紙を書くことは少なくなりました/因为因特网的普及写信的事变少了。
中国語の意味:トイレペーパー。
・卫生间的手纸用光了/お手洗いのトイレペーパーが使い切れました。
しかし、日中同形異義語は使用範囲が異なったり意味が違ったりするものは把握しにくいと思います。これらの違いを認識できるまでは積み重ねの勉強と常に両国の言葉の違いに気づくことが必要です。
「快楽」
私は日本に来て10年程経ったところで一つの過ちを犯した経験があります。当時は会社に中国人研修生が来ていて、帰国される際、中国語で感想文を書いてもらいました。私はそれを日本語に訳す際、中国語のタイトル“快乐的研修生活”を日本語の「快楽な研修の日々」と訳しました。
訳文を上司に提出したところ、上司はニヤッと笑って「快楽?何の研修やったな」と呟いたのです。何かおかしいですかと上司に聞いたが、上司は照れくさそうな表情で「快楽ってちょっと違うね」と言われました。
どう違うかと思って辞書で日本語の「快楽」の意味を調べてみました。日本語の「快楽」の意味は欲望が満たされて心地がよいであることで、例文を見たら「快楽におぼれる」とか、「性的な快楽」とかばっかりで中国語の“快乐”とずいぶん違うことが分かりました。
日本語の「快楽」と中国語の“快乐”とは、「楽しい」という点から見れば、似たような感じがするかもしれませんが、本質が異なるのは明白です。そこで中国語の“快乐的研修生活”を「楽しい研修の日々」に訳し、上司に再提出しました。
日中同形異義語の専門書
多くの日本語学習者と中国語学習者にこのような過ちを犯さないようにしていただくために、私はストックした1500ペアの日中同形異義語を集めました。それらの語彙の相違を明らかにするため、日本人の友人と一緒に余暇を使って一つ一つを分析し、10年間をかけて『日中同形異義語1500』を題にした辞書を編集して日本と中国でそれぞれ出版しました。
今は、中国の北京語言大学出版社で出版した辞書は、中国本土と日本のアマゾンで販売中です。日本のほうで出版したものは、出版社の関係ですでに絶版本になりました。私は原稿を整理してセルフ出版という形で電子書籍とペーパーバック版の両方をアマゾンにアップしております。
本書が中国語学習者または日本語学習者が抱く日中同形異義語の相違への疑問を解決する一つの道しるべとなり、日本と中国との相互理解になんらかの貢献ができれば幸いと思います。
皆様にもご利用いただければ大変うれしいです。是非アマゾンで私の名前の「郭明輝」でご検索くださいませ。どうぞよろしくお願いいたします。
郭明輝
元中国大学専任講師。1992年留学生として来日。修士課程を修了後、富山テレビ放送に就職し、国際交流スタッフとして通訳・翻訳・同行取材などに携わっていました。また、富山大学非常勤講師として中国語の作文や会話を教えていました。今は、中国語・日本語を教えているとともに通訳・翻訳の仕事をしています。
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