日本とは逆?中国の葬式での習慣の違い3選

中国文化・歴史

 こんにちは!中国語漫画翻訳者のもりゆりえです。日本と中国の間には様々な文化の違いがありますが、「葬式」や「弔い」に関わる習慣や考え方の違いについては、普段意識することも話題になることも少ないかと思います。

 今回は私が体験した、日中の「故人を悼む」習慣の違いから生じたトラブルを通して学んだ、日中の「葬式の習慣」の違いを、皆さんにご紹介していきたいと思います。これを読んでいただくことで、中国文化のバックグラウンドがある方(例:中国出身の方、長年中国で生活し、中国文化の方が馴染み深い方等)のお葬式に参列する際やお悔やみを述べる際のご参考にしていただければと思います。

きっかけ:「故人の映像」を見た時の、日中の反応の違い

 先日、私が定期的に参加している中国語サークルの方が亡くなりました。その方は、中国で長年生活してきた高齢の男性(Aさん)で母語は中国語、奥様は中国人でした。葬儀は近親者ですでに済ませており、男性が亡くなった翌週に開かれたサークルに、奥様がお菓子を持ってご挨拶に来られていました。

 その時ひとりの日本人会員が、Aさんご自身の半生を語ったインタビュー映像を会場に流しました。その場にいた日本人会員は皆、静かに映像を見ていましたが、中国語話者の会員たちはほとんど映像を見ることもなく、大きな声でお喋りしたり奥様に話しかけたりしていました。

「葬式で涙も見せない」日本人?

 

  私が不思議に思っていると、ひとりの中国人男性(Bさん)が私に中国語でこっそり話しかけてきました。

「日本人はどうして、Aさんの奥さんの前で、わざわざAさんを思い出させるような映像を流すんだ?」さらにこう続けました。「日本人は葬式で涙も流さないじゃないか僕ら中国人なら思い切り涙を流すのに…本当に何を考えてるのか分からないよ」と。

 私は、日本人会員がAさんの映像を流したのは、間違いなくAさんの死を悼み、偲ぶ気持ちからだと思いますし、だからこそ他の日本人会員は皆、静かに映像を見ていたのだと思います。しかしBさんの言葉からは、映像を流したことは故人の死を悼むどころか、むしろ遺族の傷口に塩を塗るような行為と受け止められていた可能性があると感じたのです。

①「葬式で遺族に故人を思い出させないようにする」中国

 このすれ違いの原因はどこにあるのでしょうか。私は中国出身の友人に、この一件を話してみました。すると友人は「中国は広いから地域差はあると思うけど」と一言断った上で「少なくとも私の地元(東北部)では、あり得ない行為」と教えてくれました。

 最近日本のお葬式では「エンディングムービー」と呼ばれる故人の映像を流し、参列者に故人を偲んでもらうこともあると聞きます。

 私(日本人)は、自分の祖父母のお葬式にしか参列したことはありません。そのときは映像は流しませんでしたが、遺影はフルカラーで、なるべく明るい表情の故人の写真を選んで使用していました。

 一方中国のお葬式で使用されるのは、白黒写真が多いようです。故人の映像を流すことはなく、写真を置かない場合さえあるといいます。友人にその理由を尋ねると「遺族に故人を思い出させないよう配慮しているから」とのことでした。

 そのため、友人の親戚の方が亡くなった際にも、故人を思い出させる物(写真や思い出の品など)は、しばらく遺族の手の届かない所にしまったり、故人を連想させるような言葉の使用を、一定期間遺族の前では控えたりしたこともあったようです。

②遺族を「ひとりぼっちにさせない」中国

 また、友人の言葉で私が特に印象的だったのは、「遺族がなるべくひとりにならないよう、誰かが傍にいるよう努める」というものです。

 私の祖父母のお葬式では、どちらも「遺族がひとりにならないよう誰かが傍にいる」という光景は見られませんでした。むしろ、悲しみに暮れる遺族に皆言葉少なで、そっと遠くから見守るという方が多かったように思います。

 しかし先ほどの中国出身の友人によると、「遺族には常に誰かが一緒にいて、故人をなるべく思い出させないようにしてあげるのが一般的」ということでした。

 その言葉を受けてサークルでの光景を思い出すと、会場の中国語話者の方たちが、映像に見向きもせず奥様に話しかけたりしていたのは、まさに奥様をひとりにさせず、旦那様であるAさんを思い出させないように配慮していたからだと考えられます。

③「お葬式で泣けば泣く程親孝行」な中国

 先ほど登場したBさんの言葉にもあったように「中国のお葬式では、泣く事で悲しみを表す」というのが一般的で「泣きたいときは、無理にこらえる必要はない」ようです。

 また友人にの話によると、「子は親のお葬式で、泣けば泣く程親孝行」だと考えられているとのことでした。子が親のお葬式で大きな声で泣くことも珍しくないようです。その友人自身の経験談として、日本で祖母のお葬式をした際に、火葬場で友人の親御さんが大きな声で泣いている姿を見た他の親戚(※日本で生まれ育った人)が非常に驚いていた、というエピソードを教えてくれました。

 一方、私の祖父母のお葬式のことを思い出すと、遺族であっても人目をはばからず大きな声で泣いている人はいませんでした。もちろん涙を流す人もいましたが、あまり声を出さずに静かに泣いている人や涙をこらえている人が圧倒的に多かったように記憶しています。

日本人が中国のお葬式や弔いの場で注意すること

 

 それでは、もし日本人が中国と縁のある方のお葬式に参列するときや、故人を偲ぶ場に参加する際は、どのような点に注意すべきでしょうか。まずは「そっとしておくのが優しさ」と考えられている日本と、「ひとりにさせないことが優しさ」と考えられている中国の習慣の違いを認識しておくことが重要だと思います。

 無理に涙を流したり、遺族にたくさん話しかける必要はないと思いますが、「(故人を失って)私も悲しい」という気持ちを示すと、遺族にとっては慰められることが多いようです。

 なお友人の話では、遠い親戚や友人として参列する際は、日本と同じように遺族をそっと見守ることは、特段失礼にはあたらないようです。その場合「请节哀顺便(Qǐng jié’āi shùnbiàn/ご愁傷様です)」というお悔やみの言葉を述べて静かにその場にいても構わないし、同時に無理に涙をこらえる必要もないということでした。

 また冒頭の「故人の動画を流す」と言う事例のように、お悔やみの気持ちから何らかの行動をとりたい場合も、それが本当に中国の習慣にふさわしい内容なのか、遺族や中国の習慣に詳しい人に一度確認し、了承を得ることが必要不可欠だと思います。とりわけ中国では「遺族に故人を思い出させるものは見せない、聞かせない、思い出させる時間を作らせない」ということに神経を使っているようですので、その違いを意識しておくのが、特に重要だと感じました。

まとめ

 いかがだったでしょうか。「死」については、普段はあまり触れることのない話題ですから、そのときが訪れて初めて気づくことや意識することが多くあります。互いの習慣に基づく行動をとった結果傷ついたり、全く思いもよらぬ所で相手を傷つけてしまうことがあると、今回の経験を通じて思いました。

 色々な事情で、日本で最期を迎える中国語話者や中国語出身の方も増えてきています。ご高齢の方に限らず、若い方にも起こらないとも限りません。今回の私の体験が、少しでもお役に立てれば幸いです。

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もりゆりえ

広島県東広島市出身。尾道市立大学美術学科卒業。高校時代に読んだ漫画「封神演義」をきっかけに中国語学習を開始。大学卒業後中国に渡り、浙江大学に10ヵ月間の語学留学(2005年〜2006年)をする。留学中に、「第二届中国国際動漫画節」に参加。現在はフリーランスの中日漫画翻訳者として活動中。趣味は中国のマンガアプリでマンガを読むこと。

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