【中検1級】中国語の最難関資格!?47歳から13年で合格【全学習歴・対策】とFAQ10選

 こんにちは、一毛不抜(イチゲヌカズ)です。

 私は2011年3月(47歳のとき)から中国語の学習を始め、2024年1月、約13年の苦闘の末、やっと中検1級に合格しました。現在60歳、基本独学で、中国語関係の仕事についているわけでもありません。

中国語検定1級は、中国語に関する語学検定では最も難しい試験と言われることがあります。少なくとも受験者数が最も多いHSKの最上級6級に比べると合格率や合格者数が圧倒的に少ないのは事実です。

そんな私の合格体験記ですが、1つの反面教師として活用していただければ幸いです。

中国語検定1級:試験の概要

 まず、中国語検定1級試験についてご説明します。

 中検1級試験は、一般財団法人日本中国語検定協会が行っている中国語検定試験で、毎年、11月下旬に1次試験、次の年の1月上旬に2次試験があります。

 1次試験は試験会場でのリスニング・筆記試験、2次試験はZoomを使っての面接試験となります。

試験形式と時間・配点

1次試験(120分)

(1)リスニング(計100点)

  1. 中国語の長文2つを聞き、各5つの質問に4択で答える(10問、各5点)。
  2. 中国語の長文を聞き、指定された5か所を書きとる(5か所、各10点)。

  ※1  中国語は各2回読まれます。

     ※2  リスニング試験終了後即座に回答用紙が回収されるので要注意

(2)筆記(計100点)

  1. 長文読解(10問、各2点)。
  2. 空欄補充(10問、各2点)。
  3. 語句の説明選択(8問、各2点)。
  4. 日本語訳(2問、各10点)。
  5. 中国語訳(2問、各8点)。
  6. 与えられた語句を使った中国語作文(1問、8点)。

2次試験(約30分)

 ①日本語訳(100点)

  中国人面接官が、中国語の文章をまず通しで読み、次に区切って読むので、逐次通訳。

 ➁中国語訳(100点)

  日本人面接官が、日本語の文章をまず通しで読み、次に区切って読むので、逐次通訳。

合格基準

1次試験

  •  リスニング・筆記各85点以上の計170点以上。

2次試験

  •  日本語訳・中国語訳各85点以上の計170点以上。

受験者数・合格者数・合格率(第110回データ)

1次試験

  • 受験者数:204人
  • 合格者数:22人
  • 合格率:10.8%

2次試験

  •  受験者数:28人
  •  合格者数:10人
  •  合格率:35.7%

 ※ 1次試験の合格者は1年だけ1次試験免除の特典あり。

※上記は中検公式サイトから引用しています。

 中国語を始めたきっかけ

 つぎに、私がなぜ中国語の勉強を始めたかをお話します。

 私が中学・高校に通っていたころ(1970年代後半~1980年代前半)の中国は激動期でした、ちょうど文化大革命が終了し改革開放が始まった時期に当たります。ですから、そのころの中国のイメージと言えば、毛沢東語録を掲げる紅衛兵、大衆の面前で「批斗(つるし上げ)」される高官、そして、北京の街を走る自転車の大軍です。大学に入ると第2外国語を選択するのですが、文学部の同級生200人のうち、フランス語・ドイツ語を選択する者が大半で、中国語・ロシア語はわずか数人しか選択しない「冷门(不人気)」な語学でした。そして、私が選択したのはロシア語でしたので、大学時代中国には全く関心がありませんでした。

 その後、いろいろと事情があって、30代でドロップアウトしてしまい、全国各地の自動車工場で期間工・派遣として働き始めました。その間、基本的にその日暮らしで、文字を読むとしたら『週刊文春』ぐらい、世の中の動きからまったく取り残されていました。

 トヨタの元町工場で3回目の期間工をやっていたとき、一緒に働いていた金沢工業大学の学生さんと一緒に飲みに行きました。彼が自分の大学では半分以上の学生が第2外国語として中国語を選択し、卒業後の就職でも中国関係が超人気だと教えてくれたとき、私は椅子から転げ落ちそうになりました、プチ「浦島太郎」の気分です、「あの」中国が今はこんなことになっているなんて、本当にびっくりしました。

 たしかに、ユニクロが中国に工場を建てて成功したことぐらいは知っていましたが、10数年情報のアップデートを怠っていたので、そのときの私の中国のイメージは基本的に中学・高校時代のままだったのです。その後、何か行動を起こしたかというと、そんなことは全くなく、相も変わらずその日暮らし、そのときは「びっくりした」だけです。

 そんな生活に転機がおとずれたのが2011年3月1日、静岡県湖西市のスズキ関連の部品会社に正社員として採用されたときです。その会社にも、約1年半派遣として働いていたのですが、「幸運」にも正社員として採用してくれたのです。この「幸運」には2つの意味があって、1つはこの会社が正社員として採用してくれたこと、もう1つは2011年3月11日の「東日本大震災」のわずか10日前に入社できたことです。もし、入社日が1か月ずれていたら、私の入社は取り消され、派遣としても首を斬られていたはずです。そして、この二重の「幸運」による入社が、私が中国語独学を始めるきっかけとなりました。

 期間工・派遣時代も、そこそこの給料はもらっていましたが、将来が見通せない、それで10数年その日暮らしをしてしまいました。ところが、いったん正社員になってみると、期間終了の心配なし、各種福利厚生に加え、ボーナスまでもらえる、正社員になってもう将来の心配もないのだから、何か1つ全く新しいことをやろうと一念発起したのです。

何をやるかとなったとき中国語を選んだのは、あの「びっくりした」経験があったからかもしれませんね

私の中国語学習歴(中検1級合格まで)

 では、私の中国語学習歴を時期を区切ってご紹介します。

正社員時代(2011年3月~2015年11月)

 正社員になって、何か1つ全く新しいことをやってみようと一念発起しただけですから、私の中国語学習には具体的目的(就職など)も具体的目標(中検〇級合格など)は何もありません。漠然と中国語を習得できればいいなぐらいに思っていました。ただ、工員という仕事を自ら選んだのですが、それでも少々不満は残ります、その不満を中国語の学習で解消していたということはあったかもしれません。

 この時期は、仕事をするかたわら、時間の許す範囲で中国語を学習していました。そもそもの目標が中国語を習得できればいいなという漠然としたものなので、どこか学校に行くということもなく、まず半年間、NHKのラジオ講座基礎編で文法を大まかにマスターして、そのあと、NHKのラジオ講座応用編「NHK World-Japan 华语」を使って独学しました。私の「NHK World-Japan 华语」の使い方は、毎日更新されるニュースを録音して、会社に通勤する時間、あるいは、昼食の時間、イヤホンで聴いてから、帰宅後テキストで確認するというものです。

ただ、自分のレベルがどれほどか知りたいこともあって、HSK中検は1番下の級から受けていましたね。はっきりとは覚えていませんが、会社を辞めるまでには、HSK6級と中検準1級は取っていたのではないでしょうか。2014年4月くらい?だったかと思います。

 この4、5年の期間、毎日2時間、週末も含めると、週に20時間程度勉強していたのではないかと思います。

 今は、語学学習の環境が本当に恵まれています、私の学生時代と比べたら雲泥の差です、たとえ独学でも、その気になれば、「読む・聴く・書く・話す」の4つをバランスよく学習することができます。

 ただ、私ぐらいの年齢だと、学生時代、外国語は「読めればいい」という学習方法でした、その上、独学で強制する人がいないので、「読む」を中心に中国語の学習を始めてしまい、一時期私の中国語は全くの「哑巴中文(しゃべれない中国語)」でした。この最初の誤りが後々まで尾を引きます。

 なぜ中国語を聞き取れないか、原因は、中国語の単語を「目で覚えてしまった」ことに尽きます。母国語である日本語を考えてもらえればわかると思いますが、たとえば、日本語で「時間」という単語と「ジカン」という音はぴったりとくっついています。「ジカン」という音をきけば、即座に「時間」という単語が思い浮かびますし、「時間」という単語を思い浮かべれば、何の苦もなく「ジカン」という音が口から出てきます。

 ところが、中国語の「时间」という単語を、「时间」という漢字で覚えてしまうと、「shíjiān」という音を聞いて、まず「时间」という漢字を思い浮かべてから、「时间」と言う単語にたどりつき、「时间」という単語を口に出そうとしても、まず「时间」という漢字のピンインと声調を考えてから口に出すということになります。これでは、中国語を聞き取ったり、しゃべったりできるわけがありません。私が中検1級合格まで、約13年「苦闘」した最大の原因は、この最初の学習方法の誤りです。

 ですから、これから中国語を学習する方、あるいは学習し始めてから間もない方には、中国語の単語を「耳と口で覚える」ことを強くお勧めします。その具体的方法は、「音読」「复述(復唱)」です。「听写(ディクテーション)」はあまりお勧めしません、字が介在するからです、あくまでも、単語と音だけで完結させることが重要です。もし、万が一、私と同じように中国語の単語を「目で覚えてしまい」、しかも、かなり長いこと中国語を学習されている人がいたらどうしたらいいか、その場合は、私と同じように長時間「苦闘」するしかありません。

 このように仕事の傍ら、中国語の学習を始めたのですが、会社でイヤホンを聴いていると上司から注意されます、それでも、私はやめません、当然会社の中で浮くわけです。結果、せっかく入れてくれた会社を辞めることになりました。

 会社を辞めたのが2015年11月、何かをして食べていかなければならないのですが、その日暮らしの生活には戻りたくありません、少々蓄えもあったので、そのときはじめて中国語を本格的に習得して仕事をできないかと考えました。独学では無理だと思い、2016年9月~2017年6月まで中国の北京語言大学に語学留学しました。私が本腰を入れて中国語の学習に取り組み始めたのは、「尻に火が付いた」2015年11月からかもしれませんね。

※ 「NHK World-Japan 华语

「尻に火がついた」時代(2015年11月~2017年6月)

 会社をやめてはじめて、中国語を習得して翻訳の仕事をしたいという具体的な目的を持ちました。

 それには、独学では無理だろうと思い、オンラインの翻訳スクールや個人レッスンに申し込みました。また、Skypeで中国本土の中国人と毎日会話レッスンもしました。翻訳スクールや個人レッスンは語学留学から帰国後やめてしまいましたが、中国人との会話レッスンは中検1級合格まで続けましたね。

 このようにある程度準備をして、2016年6月中国の北京語言大学に語学留学します。その目的はただ1つ、中国語を「聞き取り、話せる」ようになることです。よく、「外国語なんて留学すればすぐに話せるようになる」とよく聞きますが、少なくとも私の場合、そんなことはありませんでした。2学期中国にいましたが、全然効果がないので、2学期目はあきらめてリーディングに集中していました。

 では、この約1年間の語学留学は無駄だったかというと全くそんなことはありません。中国語の学習の上でも、中国社会の現実を見ることができたということでも、「受益匪浅(大いに得るところがありました)」。50歳を超えてから外国に行ったわけですが、なんで20代、30代のとき無理をしてでも外国に行かなかったのかと本当に悔やみました。この中国留学時代については、面白い話がいっぱいあります、また別の機会にご紹介しましょう。

 語学留学の時期、授業は午前8時~正午まで、毎日宿舎に帰ってから6時間程度勉強していたのではないでしょうか。ただ、その内容は授業の予習と復習で精いっぱいでした。

※ 北京語言大学

再び「その日暮らし」に戻った時代(2017年6月~現在)

 2017年6月中国から帰国します、私の中国語は依然として「哑巴中文(しゃべれない中国語)」のままです。帰国後中国語関係の仕事を探してみましたが、中国語を「しゃべれる」ならともかく、中国語を「読める」だけの50代の男をどこも雇ってくれるはずもありません、単発の翻訳の仕事も受けましたが、それでは生活ができません、結局、期間工としてホンダの鈴鹿工場に行き、次に、日産の追浜工場に行き、現在は実家のある名古屋に戻り、日産系の部品工場でフォークを運転しています。

 また、仕事をしながら中国語を学習するという生活に戻ったわけですが、今度は正社員時代のような余裕はありません、どうしても中検1級に合格したいと思うようになりました、もちろん合格したからどうなるものでもないということは十分承知の上です。この時期の中国語の勉強方法は、まず、25分間中国人と会話レッスンして、中国のニュース番組「新闻1+1」を聴き、あとは、「BBC News 中文」を読み、まだ時間があれば中国のノーベル賞作家莫言の著作集を持っていたのでそれを順番に読んでいきました、毎日これの繰り返しです。

 基本的に独学ですから、自分の中国語が進歩しているのかどうか全くわかりません。しかし、毎年中検1級を受け続け、毎年確実に成績が少しずつ上がっていったので、中検1級の受験が私の中国語学習のある種の励みになったのかもしれません。また、中検1級の受験をあきらめていれば、苦手なヒアリングの練習などとうの昔に放棄していたでしょう、その意味で、中検1級の受験があったからこそ、私は中国語を「ある程度」バランスよく学習できたと思います。最初の学習方法が間違っていたため、このバランスを「ある程度」まで戻すために約13年かかってしまったわけです。

 帰国後約7年間、毎日3時間週30時間程度勉強していたかと思います。 

 ※1 「新闻1+1」

 ※2 「BBC News 中文」

 中国語学習に関するアドバイス(中検1級対策も)

 おこがましいですが、中国語学習についての私なりのアドバイスを書いてみます。

中国語の単語は「耳と口で覚える」こと

 中国語の単語を「目で覚えること」の弊害、「耳と口で覚える」には「音読」「复述(復唱)」が有効であることは上に書きましたので、繰り返しません。中国語言大学の「综合课(リーディング)」の朱子儀先生も、毎回授業を前回の「复述(復唱)」から始められていました。

中国語の単語の「コアイメージ」をつかむこと

 中国語に限らず、外国語の学習というと、辞書を引くイメージがありますが、辞書は外国語を習得するための道具にすぎないということを肝に銘じるべきです。単語の「コアイメージ」をつかむことが外国語習得の目的です。

 話が抽象的でわかりづらいと思いますので、荒川清秀先生の『一歩進んだ中国語文法』の内容を使って具体的に説明します。例えば、動詞「倒(dào)」、「倒茶」は「お茶を入れる」、「倒垃圾」は「ゴミを捨てる」と訳します。当然辞書には「倒:①(お茶を)入れる;②(ごみを)捨てる」と書いてあります。これを「倒」には①と➁の2つの意味があると覚えるてはいけません、それでは①だけ知っていても、➁を知らなければ「倒垃圾」を訳せなくなるからです。

  ①と②の背後には「容器を傾ける動作」という「コアイメージ」があり、それが「倒」の対象が変わることで、「日本語」としては①と②の意味に分かれるにすぎないのです。なぜ「日本語」として①と➁の意味に分かれるかと言うと、日本語の「入れる」の意味と中国語の「倒」の意味がずれており、中国語の「倒」の意味には日本語の「捨てる」という意味まで含まれてしまうからです。「倒」の「コアイメージ」さえ知っていれば、たとえ②の意味を知らなくでも、理解できます。

 つまり、中国語を日本語に訳して理解するのではなく、中国語としてそのまま理解するということです。もちろん、通訳・翻訳するときは日本語に訳さなければなりませんが、そのときでも、辞書を引いてそこに羅列してある意味から引っ張るのではなく、中国語としてそのまま理解したそのイメージに最もフィットする日本語を選ぶという作業になります。

 では、どうやったら中国語の単語の「コアイメージ」をつかむことができるかというと、逆説的ですが、辞書を引くしかありません。ただ、辞書を引く目的は、その個々の意味の背後に潜む「コアイメージ」をつかむことにあります。ですから、辞書の引き方にもコツがあると思います。①全部の意味に目を通すこと➁類義語・反対語・ニュアンスのプラス/マイナス(褒义/贬义)に気を付ける➂自分だけの単語帳をつくることです。全部の意味に目を通すことで「コアイメージ」がだんだん浮かび上がってきます、そして、類義語・反対語・ニュアンスのプラス/マイナス(褒义/贬义)に気を付けることで、この「コアイメージ」がくっきりしてきます、このくっきりした「コアイメージ」を蓄積するためには、やはり文字化する必要があります。

 とくに類義語「コアイメージ」の明確化に非常に有効です。相原茂先生の『中国語類義語辞典』の例で具体的に説明します。「拔」も「抽」もともに「抜く」という意味の動詞です。「拔」の「コアイメージ」は「力を入れて引き抜く」「抽」の「コアイメージ」は「同類のものに囲まれているところから引き抜く(力はそう必要としない)」です。しかし、日本語の「抜く」の意味と中国語の「拔」の意味がずれているので、日本語の「抜く」の意味には中国語の「抽」の意味まで含まれてしまうのです。つまり、「倒」のときと反対のことが起こっています。中国語の「拔」を何度も辞書で引き「コアイメージ」を浮かび上がらせ、類義語の「抽」と比較することでそれをより明確にすることができます。

 辞書を引く目的は、あくまでも中国語の単語の「コアイメージ」をつかむためであり、自然に任せていれば長い時間がかかり、一定の年齢に達した人にとっては不可能であるこの作業を短時間で済ませる道具が辞書なのです。

中国語とは簡潔かつロジカルな言語であること

 翻訳スクールの先生は、「中国語を日本語に翻訳した時、日本語の文字数が中国語より1/3以上多かったら、その翻訳はおかしい」とおっしゃっていました。ということは、逆に言うと、中国語をうまく日本語に翻訳しても文字数は1/3程度増えるということであり、中国語というのはとても簡潔言語なのです。

 また、北京語言大学の「口语课(スピーキング)」の王静先生に、あるテーマについて中国語の長文を提出したところ、「おまえの言いたいことはだいたいわかる、でも、1つ1つの文が短すぎ、しかも、文と文の関係がよくわからない」という批評をもらいました。日本語は単文を羅列して、その前後関係からなんとなく意味を理解しますが、中国語は単文を接続詞できっちりと結びつけ、原因・条件・逆説など前後関係を明確にする非常にロジカルな複文になります。

 ですから、中国語で文章を書く場合、日本語の感覚で冗長かつあいまいに書くと、間違いではありませんが、おかしな中国語の文章となってしまいます。

 あと、中国では「四字成语(四字熟語)」が頻繁に使われます。日本で四字熟語を口にしようものなら、すぐ「あいつ、インテリぶりやがって」と批判されそうですが、中国では一定以上の教育を受けた人間は「四字成语(四字熟語)」を頻繁に口にします、そして、この頻繁に使われる「四字成语(四字熟語)」こそが、中国語を簡潔かつイメージ豊かなものにしているのです。

 北京語言大学の「综合课(リーディング)」の朱子儀先生に、「日本では高校で理系を選択すると、国語を全く勉強しなくなりますが、中国ではどうですか」と聞いたことがあります。朱子儀先生は、「中国では文系・理系問わず、国語が第1だ」と答えられました。そして、その国語の授業がどういうものかと言うと、第1学期の「综合科(リーディング)」の最初の授業は、「胡同文化(フートン文化)」という文章の閲読でした、朱子儀先生は、まず、学生に1ページほど文章を音読させてから、そこに出てくる単語の意味を学生に聞きます。

 今でも覚えていますが、先生が最初に聞いた単語は「方位」でした。私は日本人ですから、「方位は方位だろ」と思いましたが、先生はあてられた学生が答えられないのを見て、「方位とは方向と位置という意味だ」と厳かに言われました。中国の学生は、中学・高校の6年間、文系・理系を問わず、このような授業を受けてきているわけです。「四字成语(四字熟語)」についても、その背後にある歴史的できごと、意味の由来、使い方を厳密に教わっているはずです。そのため、一定程度の教育を受けた中国人の間では、「四字成语(四字熟語)」がふつうに平たく言えば2、3行の文を必要とする内容を、たったの4字で、しかもイメージ豊かに伝えることのできる非常に使い勝手のいいツールになっています。「四字成语(四字熟語)」については、1度は「ハンドブック」のたぐいを使ってまとめておくことも必要かと思います。

私が使った辞書

 辞書はたくさん出ており、自分の好み・目的に合ったものを選ばれればいいかと思います。ただ、紙の辞書ではなく、ネット上の無料の辞書を使うことはお勧めしておきます。

 私が使った辞書は、「共享辞典 北辞郎」「weblio日中中日辞典」だけです。前者は固有名詞やネット新語に強いのですが例文が全くありません、用例を見たいときは後者を見ました。中国語の学習が進むとこれだけでは足らなくなってきます、そのときは、中国のポータルサイト「百度」で検索しました。パソコンの画面を左右で2分割し、左側にこの3つのサイトを開いたウィンドウを、右にExcelで作った自分の単語帳を置き、その上に例えば「BBC News 中文」のサイトを被せます、調べたい単語がでてくると、それをコピペして上の3つのどれかで調べ、その結果をまたコピペで自分の単語帳に書き込むというやり方をしていました。

中検1級対策

 この記事を読まれる方は、中検1級対策を期待されていると思いますが、ここまで長々と書いてきて対策らしきことは1つも書けていないなと痛感します。しかし、対策といった対策がないことこそ、中検1級の対策だと私は思っています。

 というのは、中検1級試験は、非常にオーソドックスで、「読む・聴く・書く・話す」の4つをバランスよく目配りした試験だからです。ですから、真正面から取り組んでいくことが対策と言えば対策です、そして、それを継続しさえすれば、毎年少しずつ成績が上がっていきます、それがまた継続の励みともなります。

 テクニカルな対策ということで言えば、『中国語検定準1級・1級トレーニングブック 一次筆記問題編』過去問には目を通しておきましょう。それから、試験の形式は把握しておきましょう。1次試験については、準1級と全く同じ試験形式で難度が上がるだけなので心配ありませんが、2次試験は試験形式が全く異なります、事前にリサーチをしておくべきです。あと、11月下旬の1次試験で手ごたえありと感じたら、すぐに2次試験の準備に取り掛かることです、12月下旬に1次試験の合格通知が来てから1月上旬の2次試験まで2週間ほどしかありません、2週間で通訳のレベルを上げるのは不可能だからです。

中検1級とは

 「お前にとって、中検1級とは何だったのか」と聞かれれば、「大量のお金と時間をつぎ込んで獲得したたった1枚の紙切れ」と答えるしかありません。ただ、中検1級の受験を継続したからこそ、「ある程度」バランスの取れ中国語を習得できた(習得中?)とはいえるかもしれません。

※1    荒川清秀著『一歩進んだ中国語文法』

※2 相原茂著『中国語類義語辞典』

※3 「共享辞典 北辞郎」

※4 「weblio日中中日辞典」

※5 中国のポータルサイト「百度」

※6 載暁旬著『中国語検定準1級・1級トレーニングブック 一次筆記問題編』

 中検1級に関するFAQ

 最後に、中国語学習者から想定される質問に、私なりに答えてみたいと思います。

FAQ① 中検1級に合格したときの語学力は?

 中検1級合格レベルはどれくらいの中国語力があるのか?と聞かれることがあるので、4技能に分けて回答したいと思います。

 まず、 「読む」については、「BBC News 中文」は問題なかったと思います、莫言の小説はやはり辞書を引きながら読んでいました。「聴く」が一番の問題で、「新闻1+1」を聴いても、聴き取れない部分が多々あり、繰り返し聴き返していました。

 「書く」は比較的自然な中国語の文章が書けるようになっていたと思います。「話す」についても、Skypeを使った中国人との会話レッスンでは聞き返されることはあまりなかったと思います、ただ、ただ相手は会話レッスンの先生で、できるだけこっちの話を聞き取ろうとしてくれているので、一般の中国人相手ではまた状況が異なるでしょうね。会話レッスンのなかでは、最後まで声調の第2声・第4声、二重母音の発音があいまいだと指摘されていました。

※1 「新闻1+1」

※2 「BBC News 中文」

FAQ② なぜ中検1級を受けようと思ったのか?

 まず、私が中国語の学習を始めたきっかけが、中国語を習得してみたいというだけで、しかも基本独学でしたから、自分の中国語の進歩を知るため、中検とHSKは1番下の級から受けていました。ただ中検準1級を合格してから中検1級合格までが大変なわけです。もし具体的な目的(就職など)があれば、中検準1級で充分ですから受けようとは思わなかったでしょうね。

 中検1級が難関であればあるほど、中検準1級合格から中検1級合格までの過程が長くなります。毎年受験すると、その成績が自分の中国語の進歩の1種のバロメーターになります。中国語学習の具体的目的がなかったこと、自分の中国語の進歩を知りたかったことが、中検1級の受験を続けた理由でしょうね。そして、毎年成績が本当に少しずつですが確実に上がっていったので、それが中国語学習の励みにもなっていました。

FAQ③ 中検1級に特化した対策をしたのか?

 中検1級自体が、非常にオーソドックスな試験ですので、「読む・聴く・書く・話す」の4分野をパランスよく勉強しただけです。ただ、2次試験の直前だけは、NHKニュースの日本語・中国語テキストを、Microsoft Edgeの自動読み上げ機能を使って読ませ、それを逐次通訳する練習はしていました。

FAQ④ 中検1級対策は実践にどのようなプラス効果があったか?

 私の最大の問題はヒアリングでした、しかし、ヒアリングを一定のレベルまでもっていかないことには、絶対に中検1級は合格しない。

ですから、中検1級受験を続けたことで、「ある程度」バランスのとれた中国語を習得(習得中?)できたのではないかと思っています。

FAQ⑤ 中検1級合格して一番良かったことは?

 それはもう、苦手なヒアリングの練習をしなくてよくなったことです。

合格してからこれまで、中国人時事系YouTuberの追っかけをしていましたが、動画を見るときももうヒアリングはしません、字幕を見ます。その方が、ずっと正確に内容がわかるからです。

FAQ⑥ 中検1級の学習をして、悪かったことは?

 実は、最後の2回は、試験の1か月前から仕事を休みました。私は何とか調整できましたが、一般的には中々難しいでしょう。日頃割とまじめに働いていたので、その後会社の仕事に復帰することができましたが、生活が不安定になったことは否めません。その意味で、中検1級に合格して、これからはそんなことをする必要がなくなったことも、良かったことの1つかと思います。

FAQ⑦ HKS6級と比べてレベル感はどう違うか?

 これは、難しい問題ですね。HSK6級に合格するだけなら、中検1級よりはるかにやさしいです。しかし、HSK6級の高得点、例えば270点を目標とすると、「作文」で90点をとるのはかなり難しく、私が苦手な「聞き取り」は中検1級と違って1回しか読まれないので、これも90点取れないでしょう。

 「読解」で「作文」「聞き取り」のマイナスを補って270点までもっていけるかというと、今の私の力ではちょっと難しいかと思います。ただ、HSKはより実践的、中検1級はオーソドックスだなと試験自体の違いは感じていました。

FAQ⑧ どういう人に中検1級の受験を勧めるか?

 例えば、中検準1級をとり中国語関係の仕事に就いた方が、その後も中国語学習を継続され、自分の中国語の進歩をはかるバロメーターとして中検1級の受験を活用していただきたいと思います。

FAQ⑨ 中検1級を合格したい人へのおすすめの学習法は?

 私のように、誤った学習方法をしないことです、中国語の単語を「目で覚えない」ことです。バランスのとれた勉強を継続することですね。今年1月に2次試験を受けたとき、日本語訳の課題文章は「中国料理(中国菜)」でした。もともと、ヒアリングが苦手なのに、こんなニッチな話題に当たってしまって、日本語訳はあまりいいできではありませんでした。ただ、日本語から中国語への翻訳の方はかなりよくできたと思います。普通は逆ですよね。

 試験が終わったとき、私はまた来年から1からやり直しかとがっくりしていましたが、中国人試験官がにこにこしているんですね、それで、もしやと思い合格発表を見ると合格していました。2次試験まで来た人間を、試験官たちは落とそうとは思っていません、できるだけ合格させてやろうと思っているはずです。

 そして、試験官たちは、これまでの受験歴、成績もすべて見たうえで面接試験を行っています。ですから、試験当日の「少々」のできの良しあしより、中国語の総合力を見ています。その意味で、繰り返しになりますが、誤った学習方法をしない以外、これといった近道はありません、バランスよく毎日勉強するだけです。こんなことはまずありませんが、もし万一テクニックで合格したとしても、総合力がついてなければ意味がないと私は思います。

FAQ⑩ 現在の目標は?

 合格してから現在まで、少々リラックスしてしまい、中国人時事系YouTuberの追っかけをしていたので、まだ手を付けていませんが、『史記』などの古文を原文で読みたいと思っています(もちろん、現代語訳を参照して)。日本人が「織田信長」と聞けば、すぐさまイメージが頭に浮かぶように、中国人の頭のなかに浮かぶイメージを自分も共有してみたいですね。

 あと、1冊でいいので本格的な翻訳書を出したいです。この2つで10年はつぶれます、ということは、私は70歳になるわけですから、これでおしまいですね。2次試験が終わったときの、中国人試験官の「にこにこ」がこれまでの13年間に対する「ご褒美」だとすれば、これからの10年間、私はもう少しだけ前に進まなければいけないと思っています。

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一毛不抜

名古屋出身の六十后。20113月一念発起して中国語の独学を開始、20169月~20176月の北京語言大学への語学留学をはさみ、約10年の「苦闘」の末、20241月中検1級合格。特技は額に汗して働くこと(肉体労働)、現在の趣味(?)は中国人時事系(时政)Youtuberの追っかけ。他にHSK6級、HSK口語高級取得。京都大学文学部卒業。

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