【中国語】酒席での教養?!漢詩3選にみる酒と表現
こんにちは。上海で日本酒ビジネスに関わっているつっつんです。
さて、長い歴史を持つ中国文学-漢詩の中にも、酒を取り上げたものがたくさんあります。今日ご紹介するのは、どれも中国では小学・中学の教科書で取り上げられる、人口に膾炙している作品と言っていいもの。
前回の記事(※)で取り上げた成語・俗語と同じく、ビジネスシーンに限らず、仲良くなった中国の方のお宅に招かれたり、中国の友達と史跡を訪れたりしたときにワンフレーズでも言えると「こいつやるな…」となるかも知れない、ベーシックな3選をご紹介します!
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目次
①さしつ、さされつ、エンドレス?
山中与幽人对酌(山中幽人と対酌す) <李白>
两人对酌山花开
花咲く山中に、われら二人で酒を飲む
一杯一杯复一杯
一杯、一杯、また一杯と
我醉欲眠卿且去
私はすっかり酔って眠くなった。君よ、ひとまず帰りたまえ
明朝有意抱琴来
明朝気が向いたら琴を抱えてまた来てくれ
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まず、酒と詩と言えばこの人、李白。酒好きとしても知られ、この詩に限らず酒関連の作品を多く残しています。「李白=诗仙(shī xiān)」というのは中国でも日本でも広く知られていますね。
中国の酒席では、お酒を勧める敬酒(jìng jiǔ)が必ずあり、基本的には断らずに受け、勧めてくれた相手に返杯をするのが礼儀とされています(なので、李白のこの詩に限らず多くの場合必然的に「一杯一杯また一杯」になります(笑))。
もっとも、「酒后不驾(jiǔ hòu bú jià)=飲んだら乗るな」が徹底されている近年は「我要开车(wǒ yào kāi chē)=運転があるので」と言って代わりにお茶などを飲み、敬酒を断っているシーンが多々見られます。とはいえ、「代驾(dài jià)=運転代行」が日本よりポピュラーな気がするのも、敬酒と返杯を含めた酒席でのやり取りが重視されているからかな、と思ったりもします。
また、お酒同様に、たばこを勧める敬煙(jing4yan1)の習慣もありますが、近年は禁煙者も増えており、吸わない人が「我戒烟了(wǒ jiè yān le)=たばこ、やめたんです」と丁重にお断りするのもだいぶ見慣れた情景になりました。たばこをお断りする分、「一杯一杯また一杯」に頑張って(喜んで?)対応しているつっつんです。
②雨降る季節は、ぬる燗で
清明 (清明)<杜牧>
清明时节雨纷纷
清明節のころ、雨はしとしと降りしきり
路上行人欲断魂
路行く旅人はいまにも気が滅入るよう
借问酒家何处有
どこか一杯できるところはないだろうか
牧童遥指杏花村
牧童の遥か指さすところ、村には杏の花が咲く
**
詩仙の李白に対して、诗圣(shī shèng)と称される杜甫(dù fǔ)。この詩の作者・杜牧は、杜甫(大杜)とセットで「小杜」と称される晩唐の詩人です。
日本の古典における「春はあけぼの~」ではないですが、漢詩も季節とは切っても切れないもの。この詩は、清明節(qīng míng jié、4月5日頃)を詠んだ代表的な作品で、江南のこの季節の情景を表して余すところのない名作だとつっつんは思います。
中国ではこの時期に家族でお墓参り(扫墓sǎo mù)に行くのが一般的。日本人が連れて行ってもらうことはあまりないと思いますが、節句が近づいて来るころにこの詩の一句目を口ずさめばと誰もが「そういう季節だね」と相槌を打ってくれるでしょう。
江南を代表するお酒と言えば、もち米を主原料とする黄酒( huáng jiǔ)。この詩の三句目で訊かれている酒家でも黄酒が出され、詩中のように雨にふられた旅人が燗をした酒で身体を温めていたかも知れません。
日本では紹興酒( shào xìng jiǔ)という呼称が一般的ですが、これは実は浙江省紹興一帯で作られる限られた黄酒のみに与えられる呼び方。中国では先の「黄酒」が一般的な呼び方で、冬は温めてショウガを入れたり、夏は氷を入れたりと季節に応じた、地酒的な楽しまれ方をしています。
紹興は戦国越の古都であり、また文豪魯迅の故郷でもある風光明媚な水郷。上海にも紹興料理店があり、昼下がりに黄酒とおつまみで静かに一杯やっている粋なおじさんを見かけたりすると、この詩の境地とは似ても似つかない、普段の飲み方を反省するつっつんです。
③異郷でも一緒に飲んでくれる人はいる(はず)!
送元二使安西 元二の安西に使ひするを送る <王维>
渭城朝雨浥轻尘
渭城の朝雨は塵を払い
客舍青青柳色新
宿から見える柳は目にまばゆい
劝君更尽一杯酒
君よ飲んでくれ
西出阳关无故人
西の方、陽関から先は盃を交わす相手もいないだろうから
**
盛唐の詩人・王維が、西域と呼ばれた当時の辺境へ赴任する友人を送別する際に詠んだ詩。三・四句目の「君に勧む、さらに尽くせ一杯の酒。西の方陽関を出ずれば故人また無からん」が有名です。
陽関は甘粛省・敦煌の郊外にあり、いまでも多くの中国人にこの詩を思い起こさせる有名な観光スポットになっています。つっつんも学生のときに訪れ、ただただ広がる砂漠でひときわ寂しく夕日に照らされる遺跡に旅情を掻き立てられたものでした。
その後「ここで王維とその友人・元二はどんな酒を飲んだのだろう」と楽しみに出かけて行った食堂で(※)、偶然隣になったウイグル族の方が「君に勧む、さらに尽くせ」とご馳走してくれたのは、現地産の白酒(bái jiǔ)。中国で酒と言ったらこれ、コメやコーリャンなどの穀物を主原料とする50度を超えるハードリカーです。
東の国から異国の関所へわざわざ来た旅人をもてなしてくれたのか、「酒の肴にからかってやれ」だったのか、「一杯の酒」どころじゃなく、まあ注がれる注がれる…。ついさっき見た遺跡の旅情も全部吹っ飛ぶ酒攻めが待っていたのでした。思えば、本格的に中国の方と飲み交わしたのはこの旅が初めて。王維のこの詩に導かれ、酒に関わる今の仕事にたどり着いたと言えなくもないかも…え、無理がある?(笑)
(※)この詩で作者が酒を酌み交わしている場所は西安の郊外なので、陽関とは関係ありません。学生時代のつっつんの勘違いです。
**
さて、酒と漢詩の世界、いかがでしたでしょうか?
試験や仕事のための勉強からちょっと外れた表現や知識が、語学学習の背景や視界を広げ、ゆくゆくはネイティブとのコミュニケーションの助けになることもあるなあと感じているつっつんです。
皆さんも自分の好きなジャンルの表現を調べてみて、語学の幅を広げてくださいね!
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つっつん
北海道真狩村出身。2003年、大学院在学中に日中友好協会の奨学生として北京外国語大学に1年留学。リクルートなどを経て、現在は日本の酒メーカーの中国総経理。中国駐在10年目。座右の銘は「人間万事塞翁が馬」。趣味はカラオケ、能楽、飲み歩き。大阪大学文学部卒。同大学院文学研究科修了。
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