北京大卒!元GS現役の総合商社マンが語る“中国語”3つの利点〜中国ビジネス成功のために〜
今回は、中国語をビジネスで使うことについて、私が大手総合商社での経験から得た学びをシェアしたいと思います。守秘義務があるのであまり具体的なことは書けませんが、ポイントをまとめてみたので皆様の参考になれば幸いです。
※自分は幼少期を中国で過ごし中国語はネイティブレベルに近いので、その観点でご一読ください。
目次
序:中国語を使えることは「相手の心」に近づくこと
中国ビジネスで中国語を使えることは、単なるコミュニケーションツールを手に入れるだけではありません。相手の思考や文化、価値観の深い部分に直接触れ、信頼関係を築くための扉を開くことにほかなりません。
自分自身、大手総合商社で数々の中国向け案件を担当してきた中で、言葉の使い方ひとつが交渉の成否を左右する場面を何度も目の当たりにしてきました。
1. 中国語が活きる3つのシーン
現地パートナーとの「本音」のキャッチ
中国語を使えることで、英語では伝わりきらないニュアンスや相手の「本音」を直接感じ取れます。たとえば、2016年後(入社3年目)のときに携わった新造船関連プロジェクトの商談では、英語を使っていましたが、表面上は「問題ない」とされていた部分が、実は技術的な懸念を抱えていることが判明しました。
雑談の中で相手が使った表現に違和感を覚え、突っ込んで質問したところ、英語では言いづらい懸念を打ち明けてくれたのです。最終的にはこちらから改善策を提案し、契約をまとめることができました。
信頼関係の構築と人脈づくり
中国では特に「人脈(关系)」や「ネットワーク」の重要度が高い。現地担当者や企業トップとの直接的なやり取りの中で、相手の文化や慣習を理解している姿勢を見せることが、信頼の土台になります。
たとえば、これも2017年頃、あるエネルギー輸出入プロジェクトで現地提携先の経営者が、取引条件の微妙な調整に難色を示していたことがありました。しかし、家族とのつながりを重視する中国の価値観に合わせて、相手の家族の話題や老舗企業の歴史を中国語で丁寧に掘り下げていくと、「そこまで親身になってくれるなら協力したい」という言葉が返ってきました。結果的に、条件面の譲歩を引き出しやすくなっただけでなく、次のプロジェクトでも優先的に情報を回してもらえる関係となりました。
新しいビジネスチャンスへのアクセス
急速に変化する中国市場では、タイムリーな情報収集が成否を分けます。中国語が使えると、現地メディアやSNSからリアルタイムの情報を得やすくなります。また、日常会話の中で思わぬヒントが舞い込むことも。
中国深センの製造業者を巡回していた際、工場長の何気ない一言から「最近はEV市場が盛り上がっていて部品需要が爆発している」という話を聞き、すぐに日本側の担当者に報告しました。その結果、新規部品調達ルートの開拓が進み、数カ月後には大口契約につながったこともあります。
2. 具体的なエピソードと学び
交渉の難航を打開した「本当の事情」
新造船の共同プロジェクトを立ち上げる際、交渉が数か月にわたって進展しませんでした。契約書の文面だけでは分からない相手側の「真の懸念」がどこにあるのか、まったく見えてこなかったです。
そこで、以前から親交のあった中国人スタッフに協力を仰ぎ、ラフな会食の場をセットしてもらいました。食事中の何気ない会話で、実は上司の顔をつぶさないように「言いにくい懸念」を隠していることが判明。すぐに上司の承認を得やすい代替案を提示し、プロジェクトを再始動させることに成功。
中国語で直接コミュニケーションを図り、文化や面子(メンツ)意識を踏まえた配慮をすることで、公式ルートだけでは掴めない相手の本音を引き出すことができるのです。
ネイティブレベルの理解がときに「両刃の剣」になる瞬間
EV工場のM&A案件に関わったときは、逆に「相手の細かい感情」を汲み取りすぎたことで迷走した経験があります。ネイティブスピーカー並みに中国語が堪能な駐在員が相手側の不安や不満をくみ取りすぎ、その結果、こちらの主張がぼやけてしまい、交渉が振り回される形になりました。
そこから得た学び。相手を理解しすぎることが必ずしもプラスに働くわけではない。自社の利害やプロジェクトのゴールを見失わないためにも、一定の線引きが必要になります。
3. 中国語スキルをどう活かすか:レベル別の戦略
「まずは中級レベル」でも十分な価値がある
実務に必要な専門用語や基本的なビジネス会話、雑談ができる「中級レベル」のスキルを身につけるだけで、現地スタッフとの関係や初期交渉での信頼度が大きく変わります。まずは何とかHSK5〜6級に受かるくらいのレベルでも良いでしょう。細かい契約内容や法的なやり取りは、ネイティブレベルの駐在員や通訳を併用すればカバーが可能。
ネイティブ級になれば得られる優位性
中国語で細かなニュアンスや感情を読めるようになれば、交渉の裏にある真意を推察しやすくなります。しかし、その理解をどこまでこちらの戦略に反映させるかはバランスが重要。相手の感情に寄り添いつつ、自社の目的を見失わないためのマネジメント能力が試されます。
4. 信頼関係構築のヒント:言語の先にある「姿勢」
相手への敬意とマナーを重視する
中国語が話せることだけでは足りない。相手の文化、歴史、慣習を理解し、そのうえで敬意を払う姿勢が必要。どんなに語学力があっても、相手を軽んじる態度が見え隠れすれば、すぐに不信感を抱かれやすい。
人間らしいやり取りが大きな差を生む
ビジネス上の専門用語よりも、日常的な雑談や相手の趣味などの話を通じて築かれる関係性が、最終的に大きなメリットをもたらします。中国では特に「まず人として信頼できるか」がビジネスの土台になりやすい。
結び:中国語を学ぶ価値は「心」を通わせること
中国語を学ぶことには計り知れない価値があります。単なる言語スキルの取得にとどまらず、文化や考え方への理解が深まり、人としてのつながりを構築する鍵となるのです。
広大な中国ビジネスのフィールドで、新しい機会や人脈にアクセスするためにも、中国語の習得は大きなアドバンテージをもたらします。実際に自分が商社で経験してきたように、交渉やプロジェクトの正念場で真にものを言うのは「相手とどれほど深く向き合えるか」。言葉の壁を越え、相手の文化や価値観へ近づいていくほど、見える景色は格段に広がっていきます。
どんなプロジェクトでも相手の立場になって考えることが成功の鍵でしょう。中華圏のビジネスで成功したいなら、相互理解を促進するために中国語を学ぶことは最低条件だと思います。
チーシャン
上海出身、東京育ちの80後。米国投資銀行ゴールドマン・サックス証券などを経て、現在は商社マンとして欧州、中東、中華圏を駆け回り奮闘中。好きな食べ物は上海生煎包。座右の銘は“有志者事竟成”。趣味はバスケットボール。ダブルディグリープログラムで早稲田大学と北京大学(国際関係学院)の両方の学位を持つ。
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