【中国語】「大変感動した」は“我们非常感动了”だと間違い!?形容詞述語文と“了”
私は大変感動しました。
突然ですがこの日本語を中国語に訳すとしたら、みなさんはどのように訳しますか?
「私」は「我」、
「大変」は「非常」、
「感動する」は「感动」、
「しました」だから「了」を付けて、
*我非常感动了。
(*の付いた文は誤文です。以下同様です。)
と訳してしまいがちですが、
これは間違いです。
文末の了が誤りで、正しくは、
我非常感动。
と訳さなければなりません。
ここで、「過去なのに、なぜ了を使わないの?」と考える方も多いかもしれません。
実は、これは文法事項が幾つも絡んだ複雑な問題で、簡単には答えられません。簡潔に結論だけ言いますと、形容詞述語文において、程度の副詞と状態変化を表す語気助詞「了」を同時には使えない、というのが答えになりますが、これだけ聞いても何が何やらで、理解し難いかと思います。
そもそも、「感動した」という動詞を使っているのに、なぜ形容詞述語文の話が出てくるのか、その前提から「?」となった方も多いかと思います。まずは、この問題から見ていきましょう。
目次
中国語と日本語における「感動」の違い
「感动」は日本語では「感動する」と訳され、動詞のように思われがちですが、中国語における文法的役割は形容詞と動詞の両方を兼ねています。中国社会科学院語言研究所詞典編輯室編『現代漢語詞典(第七版)』(商務印書館、2016年)では以下のような説明が載っております。
①(形)思想、感情が外界の事物の影響を受けて興奮し、同情や憧憬・羨望を引き起こす:戦士が我が身を顧みずに、人助けをする勇ましい行為を目の当たりにして、群衆は深く感動した。②(動)感動させる:彼の話は臨席した人々を感動させた。
厄介なことに、中国語で「感动」が動詞として使われるときは、目的語を取る他動詞として使われます。対して日本語の「感動する」は自動詞で、中国語で「感动」が動詞として使われる時、日本語では使役の意味として訳されます。
また、中国語で「感动」が形容詞として使われる時、日本語では動詞「感動する」として訳され、対応関係がチグハグです。まだピンと来ないかもしれませんが、「感動」を「幸せだ」に置き換えて、中国語にしてみれば、一目瞭然です。
我非常感动。
私は大変感動しました。
我非常幸福。
私は大変幸せです。
こうしてみると、いずれも「主語+程度の副詞+形容詞」の構造を取っており、ここにおける「感动」は形容詞として使われていることがわかるかと思います。
「感动」の他にも、「累(疲れる)」や「满足(満足する)」などの単語で、同様の現象が起きます。
(形)我今天非常累。
私は今日とても疲れました。
(動)这件事儿累了我一天。
このことで私は一日中奔走した(疲れさせられた)。
(形)能吃到北京烤鸭,她非常满足。
北京ダックを食べられて、彼女は大変満足しました。
(動)神灯满足了阿拉丁三个愿望。
魔法のランプはアラジンの願いを三つ叶えました(満足させました)。
このように、日本語の対訳が、中国語本来の品詞とは異なるため、これがまず一つの困惑する要因になります。こうしたものを、日本語訳のみで考えると誤ったものになってしまいますので、文の構造をしっかり意識しなければなりません。
兼類語
次に、些か遠回りにはなりますが、「感动」のように一語が二つ以上の品詞を兼ねる単語について、少し見ていきましょう。
二つ以上の品詞として使用できる単語を兼類語と言いますが、これは何も中国語に限った話ではありません。例えば、馴染みのある英単語presentは、一語で実に三つもの品詞として使用可能です(動詞:贈る/名詞:プレゼント、現在/形容詞:現在の)。
ただ、英語は語形変化によって、その品詞が変わる現象もあります(ex. beauty, beautiful, etc.)。似たような現象として、日本語も接尾辞を変えることで、その品詞が変わります(例えば、凄い、凄さ、凄みなど)。
中国語はどうかと言いますと、語形変化することも、接尾辞が付くこともないため、その文中で果たす役割によって、単語の品詞が決まります。中国語には、多くの種類の兼類語が存在するので、その代表的なものを、例文を挙げて紹介するに留めたいと思います。
(1) 名詞と動詞の兼類語
動詞と名詞の兼類語は一番多く、最もよく見かけるものになると思います。锁、画、病、决定、工作などがそうです。
(名詞)那把锁坏了。
あの錠前は壊れました。
(動詞)门锁着呢。
ドアには鍵がかかっています。
(名詞)他已经做出了最后的决定。
彼はもう最後の決断を下しました。
(動詞)小王决定去日本留学了。
王さんは日本留学へ行くことを決めました。
(2) 名詞と形容詞の兼類語
次いで多いのが形容詞と名詞の兼類語です。先ほど挙げた幸福の他、健康、理想、困难などがそうです。この兼類語はしばしば、形容詞として使われる時と名詞として使われる時とで、ニュアンスが変わることがあります。
(名詞)人们都为了追求幸福而努力。
人々は皆、幸福を追い求めるために努力します。
(形容詞)他很幸福。
彼はとても幸せです。
(名詞)有什么困难就跟我说。
何か困ったことがあったら、私に言ってください。
(形容詞)解决这个问题有点儿困难。
この問題を解決するのは、少し難しいです。
(3) 動詞と形容詞の兼類語
今回の論点にあたる「感动」が、この動詞と形容詞の兼類語にあたります。他に、忙、明白、努力、奇怪などがあります。
(動詞)她的话感动了我。
彼女の話は私に感動を与えました。
(形容詞)我们都很感动。
私たちは皆感動しました(状態)。
(動詞)你最近忙什么呢?
最近何をしていますか?(直訳:あなたは最近何に忙しくしていますか。)
(形容詞)他最近很忙。
彼は最近とても忙しい。
(4) 名詞、動詞、形容詞の兼類語
最後に三つの品詞として使用できる兼類語を一つ紹介したいと思います。名詞、動詞、形容詞の兼類語は、それほど多くはないのですが、麻烦、方便、便宜などが挙げられます。
(名詞)你要是嫌麻烦的话,就交给我吧。
もし面倒なのが嫌でしたら、私に任せてください。
(動詞)那这件事就麻烦你了。
では、この件はご面倒をおかけします。
(形容詞)这个问题很麻烦。
この問題はとても面倒です。
以上、少し脱線になりました。兼類語について解説してきましたが、これで、「感动」の使い方について、少しでも理解が深まればと思います。
形容詞述語文
ここまでの説明で、「感动」が形容詞であり、「我非常感动」が形容詞述語文であることに納得頂けたかと思います。次の段階として、形容詞述語文における、程度の副詞と、語気助詞「了」との用法について説明していきます。
ところで、皆さん、台湾の女性作家―琦君が著した小説『橘子红了』をご存じでしょうか。2002年にドラマ化もされ、大変話題になり、筆者のオススメしたいドラマBEST10に入るものです。
そのタイトルとなっている「橘子红了」が、正に形容詞に「了」が付いた例になります。これに関連した文を幾つか考えてみましょう。
①*橘子红。
② 橘子很红。(みかんは赤いです。)
③ 橘子红了。(みかんは赤くなりました。)
④*橘子很红了。
何故①と④が誤文となるか、真っ先に考えたかと思いますが、ここは急がば回れで、もう一度形容詞述語文について復習し、その補足をしていきたいと思います。
形容詞述語文における「很」
形容詞述語文を学習する際、①のように表現してはならず、②のような構造(「主語+很+形容詞」)で表現しなければならない、と習ったかと思います。何故「很」を付けなければならないか、疑問に思った方も多いかと思います。まずはこれについて簡単に解説します。
中国語において、形容詞のみで述語となるケースは限られており、対比の意味で使われます。比較構文などを思い出して頂きますと、形容詞の前に「很」が付かないことにお気づきでしょうか。この対比の意味で使用される形容詞述語文について、幾つか例文を挙げて説明します。
(1) 我的行李多,他的行李少。
私の荷物の方が多く、彼の荷物の方が少ないです。
(2) 苹果红还是橘子红? – 橘子红!
リンゴとミカンどっちが赤いですか? – ミカンの方が赤いです。
(3) 哥哥比我高五公分。(*哥哥比我很高五公分。)
兄は私より五センチ高いです。
(1)は平叙文ですが、対比の意味を持ち、(2)は選択疑問文とその答えで、二つのものを対比させており、(3)は比較構文です。いずれも対比の意味を持つ場合で、形容詞のみが述語となっております。この時に「很」を付けるのは誤りです。上で挙げた①「橘子红。」も単文としては間違いですが、対比する文脈であれば、正しい文となります。
形容詞のみで述語となる時、対比の意味を含んでしまうため、主語がある種の状態で存続しているのを表すためには、通常、形容詞の前に程度の副詞を付けて表現しなければなりません。ここでよく使われる程度の副詞が「很」という訳です。「很」はもともと「とても」という意味を持ちますが、平叙文で「主語+很+形容詞」という構造を取って、主語の状態を描写する時は、その本来の意味が薄れて、「主語は形容詞だ。」という意味になります。この程度の副詞には、他に、今回問題となっている「非常」や文法事項として登場する「一点儿」などがあります。
很と了の併用
続いて③の例文についてですが、主語がある種の状態で存続しているのではなく、一つの状態変化を起こしたのを描写する場合、「主語+形容詞+了」という構造で表現します。「了」は語気助詞で、ここでは、状態変化を表す用法で使用されています。他にも幾つか例文を挙げてみてみましょう。
(1)他最近又胖了。
彼は最近また太りました。
(2)他怎么还没回来,饭都凉了。
彼はなんでまだ戻ってこないのですか。ご飯ももう冷めました。
(3)一夜间,他的头发全白了。
一夜にして、彼の髪は真っ白になりました。
ここで着目して頂きたいのは、形容詞の前にはそれぞれ副詞が付いておりますが、そのいずれも程度の副詞ではない、ということです。
「主語+程度の副詞+形容詞」は、主語がある種の状態で存続することを表し、「主語+形容詞+了(状態変化の語気助詞)」は、主語がある種の状態に変化したことを表します。状態の存続と状態の変化が同時には起こり得ないため、「主語+程度の副詞+形容詞+了(状態変化の語気助詞)」の形で使うことはできません。従って、「很」と「了」を同時に使用することはできず、④は誤文になります。
以上が形容詞述語文と「很」「了」との関係についての説明になります。今回問題となっている文についても同様に考えると、以下のようになります。
①*我们感动。
② 我们非常感动。(私たちは大変感動しました。)
③ 我们感动了。(私たちは感動した。)
④*我们非常感动了。
①は対比する文脈であれば、「私たちの方が感動した」という意味合いになりますが、単文で使用するのは誤りです。②と③は日本語訳で考えると大差ないように思えますが、②は、「私たちは感動した状態にある。」というイメージで、③は、「私たちは感動した状態になった。」というイメージです。②は、情景や状況描写のような場合に使用され、③はより動的なシーン、例えば、素晴らしいスピーチを聞いて、それに触発された場合などに用いられます。
これで、一通りの説明は終わりましたが、②の時制がどうなっているのか、という疑問を抱かれるかもしれません。また、④の文はこれで言い切ってしまうのは間違いですが、条件を付けて、後に文を続ければ、誤文ではなくなります。この2点について、更に見ていきましょう。
形容詞と時制
中国語は時制(テンス)が重要ではなく、アスペクトが重要だとよく言いますが、形容詞述語文と時制の関係が、その一つの例になります。例えば、日本語で昨日、今日、明日の天気について言いたい場合、
①昨日は寒かった。
②今日は寒い。
③明日は寒かろう。
このように、時制によって使う助動詞が違ってくるかと思います。では、これを中国語の形容詞述語文で言い表すとどうなるかと言いますと、
①昨天很冷。
②今天很冷。
③明天很冷。
このように、過去も現在も未来も同じ形式で表現されます。
従って、「我们非常感动。」が過去のことを表す場合(私たちは大変感動しました。)もあれば、現在の状態を表す場合(私たちは大変感動しております。)もあります。そのどちらであるかは、文脈によって判断する必要があります。
了の接続的用法
最後に、プラスアルファとして、「我们非常感动了」というフレーズが全く用いられないわけでもないことを説明したいと思います。「我们非常感动了」で言い切らず、更に文を繋げれば使用することも可能です。
この用法の要となるのは、語気助詞「了」の接続的用法です。語気助詞「了」の用法は多岐にわたりますが、これもそのうちの一つです。形容詞述語文で、程度の副詞と「了」を同時に使用する場合、更にその後に並列や累加、順接、逆接の内容などを繋げることができます。ただ、この用法を厳密に説明すると、複雑過ぎますし、本題からも外れますので、幾つか例を挙げるに留めておきます。
今天很冷了,明天还会更冷,你一定要多穿点儿衣服啊。
今日はとても寒いし、明日また更に寒くなるから、必ずもっと服を着てくださいね。
这橘子很红了,但是还不甜。
このみかんは十分赤い(熟した)のに、まだ甘くない。
能赢得那场比赛,我们已经非常感动了,教练的发言更使我们热泪盈眶。
あの試合に勝てて、私たちはもう大変感動し、監督のスピーチで我々は更に涙ぐんだ。
まとめ
以上、「私は大変感動しました。」を中国語に訳す時、「我们非常感动。」と訳すべきで、「我们非常感动了。」のように、文末に「了」を付けてはいけない理由について説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。
理解を深めるため、プラスアルファについても多く触れたため、大変長い説明となりましたが、以下に結論を簡潔にまとめます。
「我们非常感动。」は、形容詞「感动」が述語として用いられる、形容詞述語文となっているため、「很+形容詞+了」の形式で言い切ることはできず、「我们非常感动了。」は誤りになります。
プラスアルファの情報としては、「感动」は動詞と形容詞の働きを兼ねることができる兼類語であること、そして、「很+形容詞+了」は、「了」の接続的用法により、その後に文を追加すれば使用できること、この2点を挙げました。
日本語から中国語に訳す際、筆者もよく日本語に引きずられて誤った中国語に訳すことがありますが、文の構造をよく意識すれば、こうした間違いも減らせていけると思います。
みなさん、日常生活でも、ふとした拍子に、何かに感動することはありませんか?その際に是非、「我非常感动。」という文を使ってみてください。
奔跑柴犬
中国ハルピン生まれ。幼少期を中国で過ごす。10歳から日本で生活を開始。新潟と九州各地を転々。その後も中国の理科系や歴史系の知識に興味を持ち、中国の書物を読み続け中国語力を高める。大学・大学院では、老荘思想、中国医学思想の研究を行う。趣味はピアノ、卓球、詩吟、アニメ鑑賞、料理、登山など。東京大学文学部卒業。同大学大学院人文社会系研究科修士号取得。
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