反切(はんせつ)とは?意味・仕組み・そして中国語学習への活かし方【完全ガイド】

「反切(fǎnqiè)」という言葉、漢文や中国語音韻学の本で目にしたことはありませんか?
実はこの反切、千年以上前に生まれた“発音のルール”で、
現代の中国語学習にも意外な形で活かせるんです。
この記事では、
反切とは何か・どのような仕組みか・現代中国語学習にどう役立つかを、
具体例とともにわかりやすく解説します。
目次
1. 反切とは?—古代の「ピンイン」システム
反切(fǎnqiè)とは、
2つの漢字を使って1つの字の発音を示す古代の方法です。
例:
『切韻』という6世紀の韻書では、次のように書かれています。
東:德紅切
この「德紅切」はこういう意味👇
- 「德(dé)」の声母(子音部分)= d-
- 「紅(hóng)」の韻母(母音+韻尾)= -ong
➡️ 合わせて「d + ong」= dōng(東)
つまり反切とは、
声母と韻母を組み合わせて発音を再現する記号システムなのです。
言い換えれば、古代版ピンインのようなもの。
2. なぜ反切が作られたのか?
古代中国にはまだ「ピンイン」のような表音文字がありませんでした。
そのため、漢字の音を伝えるには別の字を使うしかなかったのです。
しかし「同音字(おなじ音をもつ字)」も多く曖昧。
そこで考え出されたのが「反切」でした。
声母を示す字と、韻母を示す字を組み合わせて、
正確な発音体系を構築する。
これは音韻学史上の革命的な発明でした。
3. 反切が示すのは「中古音」
反切で表されるのは、隋〜唐時代(約6〜10世紀)の発音=「中古音」です。
この時代の音は、現代の普通話や広東語とは異なります。
当時と今の違い
比較項目 | 中古音 | 現代音(普通話) |
---|---|---|
声調 | 平・上・去・入の4声 | 4声+軽声(入声消滅) |
声母 | 約36種類 | 約21種類 |
韻母 | 約100種類 | 約35種類 |
発音体系 | 韻書『切韻』準拠 | 拼音体系 |
つまり、反切をそのまま読んでも現代音(ピンイン)はわかりません。
しかし、その構造的な考え方は今も学習に役立ちます。
4. 反切の仕組みをわかりやすく理解する
反切の例をいくつか見てみましょう👇
字 | 反切 | 声母 | 韻母 | 現代ピンイン |
---|---|---|---|---|
東 | 德紅切 | d | -ong | dōng |
明 | 莫經切 | m | -ing | míng |
春 | 昌倫切 | ch | -un | chūn |
江 | 古雙切 | g | -ong | jiāng |
青 | 七盈切 | q | -ing | qīng |
このように、反切は「2つの音を切り合わせて(反切して)1音を作る」方法。
そこから「反切」という名前が生まれました。
5. 反切は現代中国語学習にどう活かせる?
ここが一番重要なポイントです👇
反切はそのまま現代発音を表すわけではありませんが、
“音の構造を理解する力”を育てる教材として大変役に立ちます。
① 声母と韻母を意識する訓練になる
反切は常に「声母+韻母」というセットで音を作ります。
これは現代のピンインの構造(例:m + a = ma)と同じ。
反切的思考=音を「子音」と「母音」に分けて聞く力
この意識が育つと、
- リスニング力が上がる
- 発音ミスを構造的に直せる
といった効果が期待できます。
② 形声字(音符)との関係を理解できる
形声字の声符の発音は時代とともに変化します。
反切で古い音を知ると、
「なぜ現代ではこの発音なのか」が納得できるようになります。
例:
青(中古音:tshjeng)→ 現代:qīng
情(中古音:dzjeng)→ 現代:qíng
こうした音変化を理解すれば、
形声字を使った“読み方の推測”にも応用できます。
③ 古典詩・漢詩の韻を理解できる
唐詩や宋詞の押韻は反切体系(切韻の韻目)に基づいています。
現代音で読むと韻がずれていても、反切で見ると「実は同じ韻」だとわかります。
例:
春 chūn と 門 mén は、現代では韻が異なるが、
中古音では同じ「真韻」に属していた。
詩を原音に近い感覚で味わえるようになります。
④ 方言・日本漢音・韓国漢字音との比較に使える
反切は全東アジアの漢字音の共通祖音。
中古音を介せば、各地域の発音の共通点・違いが見えてきます。
字 | 中古音(反切) | 普通話 | 広東語 | 日本漢音 |
---|---|---|---|---|
東 | 德紅切 tong | dōng | dung1 | tō |
明 | 莫經切 mjæng | míng | ming4 | myō |
学 | 胡覺切 ɣwæk | xué | hok6 | gaku |
これにより、中国語の発音を「孤立した今の音」ではなく、
「歴史の流れの中の一形態」として理解できます。
6. 反切を学習に活かすおすすめステップ
- 反切の基本構造を知る
→ 声母+韻母の組み合わせを理解。 - ピンインとの共通点を意識する
→ ピンインを「反切の現代版」として考える。 - 形声字の音符と中古音を比較してみる
→ 例:青 → qīng、情 → qíng のような変化を観察。 - 詩や韻文で韻を感じ取る練習をする
→ 唐詩を読む際、韻脚の字を反切で確認してみる。
7. 反切を知ると中国語が「立体的」に見える
反切を理解すると、
「今の中国語の発音」が偶然ではなく、歴史の積み重ねであることが分かります。
声母・韻母の構造
→ ピンイン理解が深まる
→ 発音の聞き分け・再現が正確になる
つまり、反切は「古い記号」ではなく、
**発音の根をたどる“知の地図”**なのです。
まとめ:反切は「過去のピンイン」であり、未来の発音学習の鍵
項目 | 内容 |
---|---|
反切とは | 声母と韻母を2字で表す中古音の表記法 |
使われた時代 | 隋〜唐(6〜10世紀) |
直接の発音指標 | ✕(現代音とは異なる) |
学習への活かし方 | ○ 音の構造理解・形声字分析・韻律理解 |
メリット | 発音意識の向上・語源理解・方言比較 |
結論
現代の中国語学習において反切は「古典的な知識」ではなく、
音を根本から理解するためのレンズです。
ピンインだけを暗記するのではなく、
その“背後にある構造”を知ることで、
あなたの中国語学習は一段深いものになります。
反切を知ることは、
「発音を覚える」から「発音を理解する」学びへの第一歩。

tad
千葉県出身、東京育ち。貿易関係の会社で10数年ほど勤務後、5年の中華圏駐在経験を活かして独立。現在は、翻訳や通訳などを中心にフリーで活動中。趣味はゴルフ。好きな食べ物は麻辣香锅。東京外国語大学外国語学部中国語学科卒業。中国語検定準1級。HSK6級。
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