“跑了过来”と”跑过来了”は何が違うのか?方向補語とアスペクト助詞“了”

語法・表現・フレーズ

こんにちは!

今回は、中国語学習者の多くが躓く方向補語と“了”

その2つが同時に出てきた場合に注目して考察をしてみます。

ここで早速、問題提起です。

A.小狗从远处跑了过来。

B.小狗从远处跑过来了。

これら2つの文の違いを説明できますか?

どちらも日本語訳すると、子犬が遠くから走ってきた。」となりますよね。

結論から言うと、どちらもそのような訳で間違いではありません。それでは、何が違うのでしょうか?

以下3つの観点に注目して考察してみます。

1.“了”の位置から

2文の“了”を区別するために、それぞれ了a、了bと置きます。

A.小狗从远处跑了a过来。

B.小狗从远处跑过来了b。

これら2つの文の違いは、“了”の位置です。

Aでは了aが動詞のすぐ後ろにあるのに対し、Bでは方向補語の後ろに了bがあります。

ここでまず注目すべきは了の基本的な用法です。

以下2つが了の基本的用法です。(1)(2)はどれに当てはまるのか考えてみましょう。

前提知識:2つの“了 ”

①アスペクト助詞 完了・実現相 v+了 

動作が完了したり、そのことが実現をみたという動作・行為の姿を表す完了・実現のアスペクト。アスペクト助詞とは動詞の後ろに位置して、動作の時間に関する状態を補足する語のことです。 「了、过、着」などがアスペクト助詞です。

(例)

我看今天的报。(私は今日の新聞を見た。)

你买几本杂志。(あなたは何冊かの雑誌を買った。)

②語気助詞 文末に置かれる“了”

語気とはその文を口にしたときの話し手の心的態度ですが、ここでの“了”は「ある状態や状況がすでに発生したことを認める」「状況の変化に気づく」*といった話し手の気持ちを表すものです。

(例)

我买了词典。(私は辞書を買った。)

我写了信。(私は手紙を書いた。)

いずれも文末の”了”は、完了した事実に対して、その事実を認める、気づく、という話し手の気持ちを表しています。

また、*「変化の”了”」とはそれまでそうでなかったものが「そうなった」の意味で文末に置きます。

(例)

天气冷。(天気が寒くなった。)

她今年十岁。(彼女は今年で10歳になった。)

他找到工作。(彼は仕事をみつけた。)

いずれも、前の状態から変化が生じて、違う状態になったことを表します。

了aは完了・実現のアスペクト助詞、了bは語気助詞

”了”の位置で考えると、了1は(動詞paoの直後にあることから)①の完了・実現のアスペクト、了2は語気助詞に当てはまります。よって、

A.小狗从远处跑了a过来。

は、犬が遠くから走ってきたという事実が完了、実現したこと焦点を当てている。

B.小狗从远处跑过来了b。

は、話し手が犬が遠くから走ってきた状況を認識する、変化に気づくことに焦点を当てているという話者の着眼点の違いが生じると考えられます。つまり、自分が今気づいた状況、今やったことを聞き手に伝えるときの発言、あるいは変化が生じたことを伝える言葉として使います。

2.方向補語とアスペクト助詞“了”の位置関係から

ここまで、以下の了bを語気助詞として見てきました。

A.小狗从远处跑了a过来。

B.小狗从远处跑过来了b。

ここで1つの疑問が湧きます。

一般的にアスペクト助詞“了”は、動詞の直後に置きます。では、動詞に方向補語がついている場合、アスペクト助詞“了”はどこに入れるのが良いでしょうか?(場合によっては了bもアスペクト助詞“了”なのでは?という疑問です)

『中国語分かる文法』(項目230)では、「動詞が方向補語をともなっている場合、ふつう方向補語は動詞と一体化し、アスペクト助詞“了”を方向補語のあとに置く」と書かれています。

さらに次のように説明があります。

(例)突然墙上的画儿掉了下来(突然壁から絵が落ちてきた。)

という例文の場合、通常は上記のルール通り、掉下来(落ちてきた)となるのが普通だということです。

しかし、この例文では下来となっています。なぜか?

本書によると、この組立は”掉了”+”下来”という連動連語※と捉えることができるといいます。

※「連動連語」とは述語の部分が2つ以上の動詞句からなり,それらが並列・動目・動補・主述・修飾などのいずれの関係にも該当しない文のこと)

そして、連動連語の「掉了下来」を「現実の状態をリアルに描写した言い方」、通常ルールの「掉下来了」「事実の客観的な叙述」と説明しています。

今回取り上げている”跑了a过来”、”跑过来了b”の場合も同じように考えることができそうです。

A.小狗从远处跑了a过来。

B.小狗从远处跑过来了b。

通常ルールで「事実の客観的な叙述」の場合は、跑过来了b”であり、”跑了a过来の場合は、「現実の状態をリアルに描写した言い方」であると考えられます。

上で述べた、“了”の基本的用法の観点から得られた着眼点の結論照らし合わせると、主観客観という視点の面で、通じる部分があると考えられます。

3.ネイティブの感覚から

最後に下記2文について、ネイティブの語感を聞いてみました。

A.小狗从远处跑了a过来。

B.小狗从远处跑过来了b。

ネイティブの感性では、、“了”の前の単語を強調するというイメージがあるようです。

跑了a过来 は跑(走る)を強調。

跑过来了b は过来(やってくる)を強調。

ただ注意点としては、“了”がつくすべての文で言えることではない、ということです。

まとめ

今回は、”跑了a过来”と”跑过来了b”について考えました。

文法的な違いから生じる話者の着眼点の違いと、方向補語と“了”の位置から、さらにネイティブの感覚的な違いの説明から解釈してみました。

ネイティブや翻訳家にも聞いてみましたが、やはり直訳で違いを生み出すのは難しく、文脈の中でどちらが適切かが分かるものだという回答が多く得られました。理屈で理解するのもとても大切ですが、例文を沢山読んで感覚的に身に着けていくのも大切かもしれません。

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HARU

兵庫県出身。同志社大学卒業。卒業後、食品メーカーで商品開発や中国事業に携わる。多くのプロジェクトで通訳・翻訳として貢献。自身の躓いた語学経験を多くの学習者に還元したいという想いでPaoChaiで中国語学習コーチとなる。新HSK6級。通訳案内士。好きな言葉は「為せば成る為さねば成らぬ何事も」。趣味は自転車で街を探索すること。温泉めぐり。ランニング。

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