中国語“给”の特徴と使い方7選—『机器猫 哆啦A梦』のセリフを中心に―

語法・表現・フレーズ

 こんにちは!中国語漫画翻訳者のもりゆりえです。中国語の漫画作品のセリフでは、日常会話で役立ちそうな中国語の表現や、漫画独特の言い回し=決めゼリフを多く目にすることができます。

 今回は、中国語の漫画作品のセリフで実際によく見かける「给(gěi) 」の使い方を、大まかに3タイプ—①動詞としての使い方とその特徴、②対象を導く前置詞としての使い方、③強調を表す助詞としての使い方—に分けて、皆さんにご紹介します。

 参考作品として、『机器猫 哆啦A梦』(簡体字版『ドラえもん』)のセリフを中心に例を出しますので、おなじみのキャラクターの性格や口調を思い浮かべながら、彼らのセリフの中で「给」がどのように使われているか、一緒に見ていきましょう。

①動詞としての「给」:あげる/やる、くれる

 中国語の動詞「给」は、日本語の「あげる/やる、くれる」に相当します。授受を表す日本語の動詞「あげる/やる(授与)、くれる(授与もしくは受領)、もらう(受領)」に、いずれも動作の向きや話者の視点による使い分けがされているのとは違い、「给」自体には動作の向きはないとされています。

 その点を踏まえ、以下の例をご覧ください。

你。

 もとの日本語のセリフ「みんなやるから。」は你」と訳されており授与の意味で「给」が使われています。仮にこの「你」を「我」に置き換え「都我」とすれば、「みんなくれ」という、受領の意味となります。

 私が子どもの頃に見ていたアニメ『ドラえもん』では、のび太はドラえもんから出してもらったアイテムを、よくジャイアンに横取りされていました。その際にジャイアンはのび太に「全部よこせ!」と言っていたように記憶しています。その「全部よこせ!」も「都我!」と訳すことが可能です。

動詞「给」の特徴:二重目的語をとれる

 また、動詞「给」の大きな特徴として、以下のような形で二重目的語をとれることが挙げられます。

間接目的語直接目的語」:~に〇〇をあげる/やる、くれる

①我田先生一本书。:私は田さん本を1冊あげた/やった。→授与を表す

②田先生一本书。:田さんは、私本を1冊くれた。→受領を表す

②前置詞「给」:受領対象を導く「~に」

 日常会話でも頻繁に使われ、漫画作品でもよく目にするのが、前置詞「~に」という使い方です。「给」を置く位置は、以下の2種類があります。

A:「情報やモノの受け手(=受領対象)動詞:~に〇〇する―①/〇〇してあげる―②

B:「動詞受領対象」→動詞が「与える」を意味するもの(例:交/渡す、献/捧げる、送/送る、还/返す など)

 A-①「~に〇〇する」の形の例文としては、「我打个电话。」が挙げられます。

 しかしここで「“我打电话给你”という表現を見たことがあるような…?」という方もいらっしゃるかもしれません。確かにその通りで、漫画のセリフでも実際の会話でも「我打电话のような、给+受領対象が動詞の後ろにくるパターンも、しばしば見受けられます。

 これは「给+受領対象」が動詞の前に来る場合は、その動作を強調し、「给+受領対象」が動詞の後ろ来る場合は、情報やモノの受け手(受領対象)を強調した用法となるからです

 まとめると、以下のような形となります。

受領対象動詞:我打个电话→私はあなたに電話します

動詞受領対象:我打电话→私は(他の誰でもなくあなたに)電話します。

 またA-②「~に〇〇してあげる」の形の例としては、『机器猫 哆啦A梦』の以下のセリフが挙げられます。

你想要的东西……全部都

 次にBの形「(「与える」を意味する)動詞受領対象の形としては、以下のようなセリフが見られます。こちらの場合、先のAのように動詞の位置を動かすことはできません。

行了,快

 作品の中で、ドラえもんがのび太に「早く返してよ」と言っている姿は、一度は見たことがあるという方も多いのではないでしょうか。このようにキャラクターが頻繁に話すセリフや、キャラクターらしさがよく表れているセリフを丸暗記するのは、セリフにふさわしい場面やニュアンスをつかみやすいため、個人的にもオススメの中国語学習法です。

③「~される」:被害の動作の仕手を導く

 被害の動作を与える者(=仕手)動詞の形で、「~に〇〇される」という意味を表します。

我会妈妈的。

 ここでの「给」は、中国語の前置詞「被」と同じように使うことができます。そのため、「我会给妈妈骂的」を「我会妈妈骂的」と言い換えることも可能です。

④「~のために」:利益の対象を導く

利益の受け手(受益者)動詞の形で、「~のために〇〇する」という意味で使うことができます。以下の例文は、私が仕事で翻訳した中国語の漫画作品で目にしたセリフです。

我不忍心抓,就把它带过来

あなたのために、心を鬼にしてコイツをつかまえて(連れて)来たんだ。

 上記の「给」も「~のために」という受益者を導く中国語の前置詞「为」と置き換えが可能なため、「我不忍心抓,就把它你带过来」とすることも可能です。

⑤助詞「给」:過失や残念な気持ちを強調

動詞の形で「(うっかり)~してしまった」と表現することができます。

哎呀,胡椒粉了。

 日本語原文では、「その胡椒を落としたらしい。」となっていますが、中国語訳文を直訳すると「あら、胡椒をうっかり落としちゃった」となります。

「うっかり~した」は日常会話でも使いやすい表現と言えるのではないでしょうか。「我把〇〇给忘了」の形を覚えておけば、例えば「我把自己的生日,怎么给忘了…(なんで自分の誕生日を忘れてたんだろう…)」というかなり残念なシチュエーションを、情感たっぷりに(?)伝えることもできますね。

⑥「把」を用いた処置文で内容を強調する

 特定の目的語を強調する「把構文」を用いた場合、動詞の形で「给」の後の動詞を強調することができます。例えば、『ドラえもん』の嫌味なキャラクターとして有名な、スネ夫のセリフを見てみましょう。

我一个人教室打扫了。

 上のスネ夫の日本語のセリフ「教室のそうじをひとりでやりました。」を字面通り中国語に訳せば「我一个人打扫教室了。」となりますが、そこを敢えて「把構文」+「给+動詞」の「我一个人把给室打扫了。」という強調の形にすることで、自分の行いを自慢げに語っているニュアンスを表すことができます。多少大げさに訳せば、「このボクちゃんが、ひとりで教室を掃除したんだよ」という感じでしょうか。暗に「自分を褒めてほしい」とアピールしていることが、この構文が使われていることでも分かります。

⑦「给我~」の形で、強い意志や命令を表す

 最後に、私が実際に仕事で携わった作品で頻繁に見かける「给我~」の形の命令形をご紹介します。この形は、強い意志命令を表す使い方で、私が中国語のバトル漫画の翻訳をするようになって、初めて知った使い方でした。『机器猫 哆啦A梦』でも、以下のような場面で使われています。

是谁在胡说八道!给我出来!

 また私が実際に翻訳した漫画作品でも「给我~」の命令形は、以下のような漫画の決まり文句として頻繁に登場していました。

  • 给我等着!:覚えてろよ!(直訳:待っていろ!)→相手が敗れ去るときの捨てゼリフ
  • 给我破!:直訳:破れろ!→ファンタジー要素の強いバトル漫画で、戦う相手の結界(?)などを破壊する際、気合のひと声として頻繁に使用される。仕事で実際に日本語に訳す場合は、「ハァ!」などの掛け声にすることが多い。
  • 给我杀!:殺してしまえ!→戦闘中に部下への命令で使用されることが多い。

 ここでひとつ注意が必要なのは、命令や強い意志を表す「给我~」の形は、実際の会話で使うと、かなりキツく乱暴に聞こえてしまうことです。実際の会話で使う場合は、文頭に「请」をつけて「请给我〇〇(〇〇をください)」の形にしたり、「把〇〇拿给我一下好吗?(ちょっと〇〇を取ってくれる?)」のように、文末に「一下」「好吗?」をつけて、ケンカ腰に聞こえないよう気をつけましょう。

まとめ

 いかがでしたか?中国語「给」には、今回ご紹介したもの以外にも、まだまだたくさんの使い方があります。中国語を学習して最初の方に習う単語であり、頻繁に目にすることもあって「なんとなく“给”を使っている」という方も少なくないのではないでしょうか。あまり厳密に用法を分析する必要はないと思いますが、時間のあるときに文法書や辞書を見ながら、「给」の使われ方を考えてみるのも、非常に勉強になるかと思います。

 また今回ご紹介した『机器猫 哆啦A梦』は、ひとつひとつのセリフが短くシンプルなこともあり、中国語の品詞や構文の分析もしやすいため、中国語学習の教材としてもオススメです。「给」の様々な使われ方を見ることもできますので、機会がありましたらぜひ日本語の原作のセリフと読み比べて、どのような中国語の単語や構文が使われているかを見てみてください。

<『机器猫 哆啦A梦』販売サイト>

①:珍蔵版機器猫哆啦A夢 全45巻(ドラえもん) 9787538648140 (ato-shoten.co.jp)

②:ドラえもん 中国語 5巻セット 中国語検定 HSK 対策 漫画 マンガ 教材 日常会話 中国 語学 留学 | 藤子・F・不二雄 |本 | 通販 | Amazon

アイコン

もりゆりえ

広島県東広島市出身。尾道市立大学美術学科卒業。高校時代に読んだ漫画「封神演義」をきっかけに中国語学習を開始。大学卒業後中国に渡り、浙江大学に10ヵ月間の語学留学(2005年〜2006年)をする。留学中に、「第二届中国国際動漫画節」に参加。現在はフリーランスの中日漫画翻訳者として活動中。趣味は中国のマンガアプリでマンガを読むこと。

もりゆりえさんの他の記事を見る