【中国語】「字本位」(zì běn wèi)とは?謎に包まれた理論を解説

語法・表現・フレーズ

「字本位」(zì běn wèi)という中国語理論について、「厘清中西两种‘字本位’观的异同」(中国社会科学网, 2021年8月17日)の内容をベースに、紹介したいと思います。

1. 「字本位」には二つの異なる立場がある

中国語における「字本位」理論と「字本位」教授法の中西比較です。

分類 提唱者 年代 目的 地域
中式「字本位」理論 徐通锵(Xu Tongqiang) 1990年代初 中国語研究(理論) 中国
西式「字本位」教授法 白楽桑(Bailesang / Claude Hagège) 1980年代末 対外漢語教育(実践) フランス

2. 起源と背景の違い

  • 中式理論的「字本位」

    印欧語の文法モデルでは中国語の特性を十分に説明できないという反省に基づき、漢字の形・音・義の統一性と表意性に着目して構築された理論。

    ➤ 目的:語法体系を「字」を中心に構築する。
  • 西式実践的「字本位」

    単語中心の従来型教材では、学生が字の意味や構成に理解が乏しく、語彙の類推が困難になるという問題意識から生まれた。

    ➤ 目的:常用字を中心に語彙を拡張し、短期間で語彙量を増やす

3. 理論的焦点の違い

視点 中式字本位 西式字本位
中心単位 文法・統語単位としての「字」 教授単位としての「字」
分析方法 「字 → 辞 → 字块 → 句」などの階層構造 「字 → 詞 → 句 → 篇」の学習法
強調点 職用(統語・構文的機能) 教材設計・筆順・部首分析など形式面
問題点 語と語素の区別が不明確など 語義の不適切な拡張(例:「面条」⇔「方面」)など

4. 理論発展と応用の差異

  • 中式「字本位」理論
    • 徐通锵:文法研究に「字」を導入。
    • 潘文国:音韻、語形、字義などに拡張。
    • 王洪君:語義・文字両面での「字」研究を提唱。
    • 批判:字と語の関係、語素との区別不明など(王寧、冯胜利らによる指摘)。
  • 西式「字本位」教授法
    • 理論的発展は限定的。
    • 白楽桑・張朋朋の教材(『汉语语言文字启蒙』『滚雪球学汉语』など)に実践的成果。
    • 語義展開における誤導(例:「楚国」「方面」などでの誤用)あり。

5. 応用対象と成果

観点 中式 西式
対象 来華留学生、語学研究 欧州圏の初級学習者
教材成果 教育現場で限定的応用、体系的教材少ない 教材に明確に実装、影響力ある書籍多数
教育目的 系統的な語法理解と能力育成 語彙量の短期的増加と応用力向上

6. 教育・研究への示唆

  • 「字本位」理論と教授法は混同してはならない
    • 理論(中式):言語単位の認識・文法説明を目的。
    • 教授法(西式):学習効率・実用性を重視し、他法との併用も可能。
  • 教授法も学者や教材ごとに注目点が異なるため、一括りにはできない。
  •  理論と実践を有機的に結びつける必要がある:
    • 理論:用語の明確化、語義構造や文字義の整備。
    • 実践:学習段階や学習者特性に応じた教材設計と内容精選。

7. 結論

  • 「字本位」という用語は同じでも、中西で目的・立場・方法が大きく異なる
  • 両者の長所を活かしながら、理論と実践を橋渡しする研究・教材開発が必要。
  • 特に中国語教育においては、字の形音義と語の意味機能をバランスよく統合することが鍵。

「字本位」についてさらに詳しく知りたい方は下記2つの記事で、当該分野で有名な本を2冊要約しているので参考にしてみてください。

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tad

千葉県出身、東京育ち。貿易関係の会社で10数年ほど勤務後、5年の中華圏駐在経験を活かして独立。現在は、翻訳や通訳などを中心にフリーで活動中。趣味はゴルフ。好きな食べ物は麻辣香锅。東京外国語大学外国語学部中国語学科卒業。中国語検定準1級。HSK6級。

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