プロが語る【中国語】翻訳中にぶつかる3つの問題と解決法

中国語のレベルが上がり、難易度の高い中国語テキストを読むようになると、日本語への翻訳に困るような文章に出くわすことがあります。読解学習の一環として中国語を翻訳している人や、将来的に翻訳を仕事にしたいと考えている人にとってはよく悩む問題でしょう。翻訳を仕事にしている私でも、このような問題で悩むことはしばしばです。

この記事では、中上級以上の学習者や、翻訳者を目指している方を対象に、主に中国語テキストの読解を想定して、翻訳中によくぶつかる問題のパターン三選と、それぞれの解決法をご紹介します。

パターン1:スラング・慣用表現・故事成語

新しく生まれるスラングや、昔から使われている慣用表現・故事成語は、直訳すると意味が通らなかったり、一見するとまるで理解できなかったりします。特にインターネットが発達し、テキストのコミュニケーションが増えた現代では、日々新しい表現が生まれ、一気に広まっては廃れています。

真香

「翻意する」、「手の平を返す」といった意味のスラングです。リアリティー番組で田舎暮らしを始めさせられた男の子が、当初はホストファミリーに対して反発していたにもかかわらず、数時間後には「真香!(=おいしい)」と言って食事をしているシーンがネット上で話題になり、次第に動詞として使われるようになりました。

例文
虽然我觉得这部手机有点贵,但用起来真香(このスマートフォンは高いと思ったが、使ってみると非常に良い)

铁饭碗

直訳すると「鉄製の茶碗」で、「食いはぐれることのない仕事」を表します。

例文
大多数的学生都会寻找一些铁饭碗的工作(ほとんどの学生は安定的な仕事を探そうとする)

望梅止渴

「梅を眺めて渇きをいやす」という意味で、「空想で満足する」ことを表す故事成語です。行軍中に部隊が水不足に陥った際に、梅を想像させて唾を分泌させることで乗り切った曹操の故事に由来します。

例文
这种无法实现的计划只是望梅止渴(このような実現不可能な計画は単なる空想に過ぎない)

解決法

このような表現は、意味を知らなければ理解できません。前後の文脈に照らして突飛な表現が出てきた場合は、スラング・慣用表現・故事成語の類だと疑って検索してみるとよいでしょう。Googleだけでなく、中国の検索エンジン百度などで検索してみると良い結果が得られやすいです。また、オンライン辞書の北辞郎は新語の反映が早いです(ただし、ユーザーが自由に編集できるので、不正確な場合もあります)。

なお、故事成語は中国と日本で字面が似ていても、違う意味で使用されることがあるという点には注意が必要です(「一刀両断」、「朝三暮四」など)。見たことがある成語でも、もしかしたら意味が違うかもしれないということを常に念頭に置く必要があります。

一刀両断
中国:関係を断つ
日本:思い切って決断する、はっきりと処理する

朝三暮四
中国:頻繁に変化する、一定しない
日本:目先の物事に捕らわれる、口先で人を騙す

パターン2:文脈がわからない

テキストを正確に翻訳するには文脈が重要です。特に仕事で翻訳を請け負う場合には、文脈がわからないためどう翻訳すればよいかわからないということがよくあります。たとえば「你好」というセリフひとつ取っても、話者の性別や年齢、登場人物の関係性、シチュエーションなどによっていかようにも翻訳することができます。また、「点击」はPCの場合は「クリック」だがスマホの場合は「タップ」、といったように、状況によって訳し分けが必要な単語もあります。ソフトウェアに使われるテキストということはわかっても、PC用なのかスマホ向けなのかがわからなければ正確に訳すことはできません。

解決法

仕事で請け負っている場合は、発注者と密にコミュニケーションを取ることが解決方法です。セリフの話者情報、テキストの用途など、欲しい情報を積極的に聞けるのが良い翻訳者です。

もっとも、機密保持などの観点から詳しい情報を教えてもらうことができない場合もあります。その場合は、得られる情報から推測して翻訳し、申し送り事項を残すなどして対応するしかありません。ある映画の字幕翻訳を担当した翻訳者の方は、映像が一切提供されなかったため、やむを得ずテキストから場面を想像して翻訳したとインタビューで話していました。

学習用テキストの場合、内容理解に必要な情報が提供されていないということはまれだと思いますが、文脈をしっかりと理解して適切な訳語を選択するのが大切であることに変わりはありません。意味のわかりにくい部分に出くわしたら、前後にヒントがあるのではないかと疑ってみましょう。

パターン3:創造性が高い

広告のキャッチコピーや映画のタイトルなど、創造的な力が求められるという理由で翻訳に悩むパターンもあります。漢方茶ブランド王老吉の広告コピー「怕上火 喝王老吉」や、山東省の観光広告コピー「好客山东 欢迎您」などは、それぞれ「のぼせたくなければ王老吉を飲もう」、「客好きな山東があなたを歓迎します」などと直訳することはできても、広告コピーという観点からはさらなる工夫が必要です。「インテル入ってる」の押韻を上手く反映した英訳「Intel inside」のように、オリジナルの要素を反映した訳ができるのがベストです。

解決法

こればかりはひらめくのを待つしかないのですが、そもそもひらめくためにはコピーライティングなどのクリエイティブな素養が必要になります。言語能力とは別の力が求められるという話になってくるので、仕事の場合は、背伸びせずに断るという選択肢も視野に入ります。このようなクリエイティブな要素のある翻訳は「トランスクリエーション」などと呼ばれ、一つのジャンルとなっています。

学習的な観点では、映画や漫画などの作品の中国語タイトルと日本語タイトルを比較してみると、両国の傾向などが見えてきて、トランスクリエーションの参考になります。

中国(原題):非诚勿扰
日本:狙った恋の落とし方

中国:火影忍者
日本(原題):NARUTO -ナルト-

おわりに

中国語がどれだけ上達しても、すべての中国語テキストの意味がわかるようになるとは限りません。辞書や教科書では対処できない問題があるということを知っておくと、より中国語の理解が深まるでしょう。

水谷剛

愛知県一宮市出身。名古屋大学法学部卒業後、中国に渡り、大連で3年、上海で4年間生活する。2018年に日本に帰り、現在はフリーランス中日翻訳者として活動中。主な翻訳分野は法律とゲーム。「ミステリアス・トレジャー」というアナログゲームブランドも展開中。